積立投資

オルカンとS&P 500 どっちがいいのか?

投資信託を選ぶ際に、全世界の株価に連動するオルカンか、もしくは、アメリカの株価に連動するS&P 500のどちらか薦めるというのが昨今のトレンドである。さて、この2つのファンド「どちらも選んでもほぼ一緒なのでは?あまりこだわることはない」と解説する有識者もいるがそれは本当だろうか?オルカンとS&P500 初心者はどっちを選んだほうがだろうか?昨今オルカンを推す声が多いがこれは正しいのだろうか?

1. 過去36年でS&P 500はオルカンの2.6倍成長している?

投資に求めるのは儲かるといこと。それならばS&P 500のほうが圧倒的にリターンが高い。オルカンが連動する株価指数であるMSCI ACWIが設定された1987年12月末からの2023年12月末の36年分のデータを使って比較してみる。S&P 500のほうがパフォーマンスは約2.6倍ほど、オルカンに対してよい。

以下が、1987年末に100ドル投資していた際の株価の動きを示したグラフである。S&P 500に投資すればこの36年間で19.2倍、つまり、1920ドルになっている。その一方、オルカンでは727ドル、つまり、7.3倍にしかならない。パフォーマンスの差は2.64倍ある。これではどっちでも一緒とは言えない。

年間平均株価成長率、つまり、1年間の平均リターンで見てみると、
S&P 500  8.6%
オルカン 5.7%
と、年間2.9%もS&P 500のほうがリターンが高い

例えば、5000万円をFIRE資金として運用していると仮定しよう。その場合、S&P 500で運用した場合は年間平均430万円のリターンが得られる。オルカンは年間平均285万円しか受け取れない。月に直すと12万円ほど運用成績が違うということだ(税引き前の数字)。

リターンを考えればS&P 500がオルカンよりも優れていると考えられる。

2. オルカンのほうがS&P 500に対して安定してパフォーマンスが悪い?

1では、年間平均パフォーマンスを見てきた。36年間を1年ごとのパフォーマンスを観察していきたい。

以下が、オルカンからS&P 500のリターンを引いたグラフ。グラフの数字が0%以上であればオルカンのほうがパフォーマンスということだ。オルカンがS&P 500に年間リターンで勝利したのは1988年から2023年の36年中、12年と約3分の1にとどまる。逆言えば、3年に2年はS&P 500のほうがパフォーマンスが良い。

また、直近10年ではオルカンがS&P500よりもパフォーマンスが良かったのは2017年のみである。

オルカンがS&P 500を連続してパフォーマンスを凌駕して時期もある。上記のグラフの灰色の点線の部分。2002年から2007年のリーマンショックの前までの期間のみである。これはアメリカ経済が、ドットコムバブル崩壊の後遺症からS&P 500が伸び悩んでいた、それに対して世界経済は、新興国がBRICSブームで調子が良かった時期である。

ただし、これは36年の中で6年ほどの期間であり、直近では世界経済よりもアメリカ経済が強く、AIをはじめとしたイノベーションは常にアメリカら起こっている。

オルカンがS&P 500のパフォーマンスを上回るためには、新興国の経済成長及び株価の動きが重要だといえる。

3. 分散しているオルカンだが、S&P 500に比べて下落耐性があるとは言えない?

オルカンが連動する株価指数であるMSCI ACWIは、銘柄数2800銘柄、グローバルの株式市場の約85%をカバーしている。*1S&P 500のアメリカ市場の500銘柄で、米国株式市場の時価総額の約80%をカバーしている。*2

つまり、オルカンのほうが分散している。つまり下落耐性があるのではないか?という推察が成立つ。そこで、経済が悪く株式のパフォーマンスが悪かった年、つまり、オルカンとS&P 500の両方マイナス成長だった年のパフォーマンスを見ていきたい。

このような年は36年中8回、つまり、4年から5年に1回ある。その8回、オルカンの下落率がS&P500よりも少なかったのはなんと2002年の1回のみとなる。つまり、世界経済が悪く株式が下落している時期にオルカンのパフォーマンスはS&P500よりも良いとは言えない。

4. オルカンがS&P500に凌駕した2002年から2007年を詳しく分析

それでも、オルカンを選びたいということで、オルカンのリターンがS&P 500 よりも良かった2002年8月末から2014年7月末までのパフォーマンスを詳細にみていきたい。以下が2002年8月末に100ドルをオルカンとS&P 500に投資した際の月毎のパフォーマンスである。

BRICSブームで新興国の株式が盛り上がった影響でオルカンは5年で2.1倍と、ドットコムバブルの後遺症に苦しむ米国市場のS&P 500の1.7倍をアプトパフォームしている。ただし、リーマンショックでの下落率はS&P 500を上回る -56%となり、分散しているオルカンはこの下落時にS&P 500以上に下落した。

リーマンショックはアメリカ発の金融危機だ。そういうこともあり2年ほどは再びS&P 500よりもオルカンのほうがパフォーマンスは良い。しかし、世界経済の中心地であるアメリカは力ずよく復活すると、2014年7月末にはほぼ同じリターンとなった。

この先は、ご存じのようにS&P 500が力強い成長を見せていく。これを見る限りに
・大型の新興国(例えば、インドや中国)が米国よりもかなり力強く経済発展する
・米国で大きな景気後退が起こりその回復に苦しむ
という2つのストーリーのいずれか、もしくは、両方が成り立たないと、オルカンがS&P 500をアウトパフォームすることは難しい。

現在世界経済の中心はアメリカであり、多くの国の景気がアメリカ経済に依存している。昨今のAIブームもアメリカ発ということで、なかなかオルカンがS&P 500よりもパフォーマンスが良いということをイメージしにくい状況だ。

S&P 500は常にオルカンよりもパフォーマンスが良かったわけではない。ただし、世界経済はどんどんアメリカ依存になっており、オルカンがS&P 500よりもパフォーマンスが良いというシナリオが立てにくくなっているのも事実だ。

5. オルカンもS&P 500も将来は未知だが分散しすぎ理論

現時点では、オルカンとS&P 500については、どっちを買ってもほぼ同じというというほどパフォーマンスが類似しているわけではない。圧倒的にS&P 500のほうがパフォーマンスが良い。

これの理由の一つに、短期リターンを追わない長期投資におけるパフォーマンスという意味では、分散するために2800銘柄に投資するというのは分散しすぎということもある。経済成長をとらえるのであれば、その時代に適した会社を選ぶべきでそれが2800社も必要かというと疑問がある。これはS&P 500ですら、500社も必要なのかという疑問もあるくらいだ(詳しくはS&P 500が最強インデックスなのか? (enjoy-investments.com)を閲覧してほしい)。

ただ、本記事のオルカン vs. S$P 500の比較はあくまでも過去データの比較であり、将来のパフォーマンスについては誰もわからない。よって、自分が信じる銘柄に投資するほうが納得感があって良いというのが結論だ。この記事を読んでどちらの銘柄に納得感が作られただろうか?

投資に求めるものを値上がり(リターン)とすると、オルカンとS&P 500はどっちを選んでも同じだといえるほどパフォーマンスは似ていない。S&P 500のほうが力強いパフォーマンスを見せている。

データ紹介

*1 オルカンについて
・当記事で、オルカン、オールカントリーとしたのは、MSI ACWI指数の連動したファンドとしております。MSCI ACWIは、先進国23カ国と新興国23カ国に上場する大・中型株を 対象にした株価指標で、 グローバルの株式市場の約85%をカバーしているとされています。
・MSI ACWI の過去データは、End of day index data search - MSCIから取得しました。年間リターンは、12月最終営業日の終値で計算しております。ドルベースのデータになります。

*2 S&P 500について
・S&P 500は、アメリカの代表的な上場企業500社から構成された株価指数です。
・アメリカで、時価総額が大きいトップ3のETFは、いずれもS&P 500に連動したものです。つまり、アメリカでもっともメジャーな株価指標といえます:Largest ETFs: Top 100 ETFs By Assets (etfdb.com)
・S&P 500のデータは、S&P500 過去のレート - Investing.comから取得しました。年間リターンは、1月最初の営業日の初値で計算しております。

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