FIRE研究

インデックスファンドのFIRE運用(取崩し運用)ストレステスト - 2000年代をどう乗り切るべきであったか?

2025年2月10日

FIRE達成を目指している方も多いだろう。現在のFIRE生活を送るための投資運用方法は、オルカンやS&P 500などのインデックスファンドを使ったものが主流だ。どのくらいの資産をインデックスファンドで運用すればFIREができるか?という計算をする際は、過去のデータに頼りしかない。

そして、必ずと言っていいほど問題になるのが株価が振るわなかった2000年代をどう乗り切るかという問題だ。これは、オルカンにしてもS&P 500にしても同じであり、2000年代は米国を中心に株価パフォーマンスが非常に悪くそのような時代が来た場合どうしたら良いのか?というのが、課題になる。

現在、世界の経済の中心地である米国株のパフォーマンスが圧倒的に良い。その為、インデックスファンドでの運用でリスクは感じない。ただし、未来は予見できない。2000年代のような米国株のパフォーマンスが来た場合、FIRE運用(取崩し運用)をどのようにしたら良いのだろうか?

2000年代のインデックスファンドのパフォーマンスの悪さ

2000年代のパフォーマンスの悪さは、
・ 2000年にドットコムバブルが崩壊したこと
・ 2001年には世界同時多発テロが起こり戦争が始まった
・ 世界同時多発テロに関連して、2003年にはイラク戦争が始まった(2011年12月に終結宣言)
・ 2008年には不動産バブルにリーマンショックが起こった
という4つの株価イベントが立て続けに起こったことになる。これにより、十分な株価の回復期がなく下落した。

この結果、S&P500の1999年末終値の1469ポイントを超えるまでに14年もの必要になる1

もちろん、投資という意味では配当金が受け取れるので上記のプライスインデックスが全てではない。リターンをより分かりやすくするために配当金再投資モデルのトータルリターンを示した数字が以下になる。

リーマンショックが起こる前の2005年、2006年に1999年末の終値を超えているが、2008年のリーマンショックで再び1を割り込んでいる。安定して1999年の終値を超えるのは2010年。プライスインデックスが大きく凌駕する2013年には1.8倍まで成長している。これにしても、11年間は、1999年末の価格を超えてないともいえる。

現在は、S&P 500が、最強の投資術(株式のインデックスファンド)という呼び声が高い。しかし、この期間に最も人気があった商品は、グロソブという債券のアクティブファンドであった。

2000年代のインデックスファンド(円建て)パフォーマンスとFIRE運用

S&P 500のFIREモデルの計算2では、2000年スタートでも4%の取崩しルールでは破綻しないということを示している。この場合の2024年の年末に約1.2億円の資産を保有していることになる。

ただし、4%ルールであると、5000万円でも僅か年間200万円(月間16.7万円)しか取崩せない。しかし、この期間のS&P 500の年間平均利回りは9.5%である。そこで、年間300万円(月間25万円)という、6%の取崩しモデルで考えると、前述のように破綻することになる。どのようにしたら良いのか?

パフォーマンスの悪さに対応:待機資金を作るFIRE資産運用

まずは、下落に備えて待機資金を作ること方法が考えられる。例えば、生活費の1年分を保持して置き、マーケットが下落した際にはそこから生活費を補填するというアイディアだ。

ドットコムバブルと世界同時多発テロが終わった際に投入する

5000万円のFIRE資金の内、300万円を待機資金として現金で保持し(無利子)、4700万円で運用したとする。

2002年の年末に待機資金300万円を入れたとする。2002年末に取崩しする予定の生活費の294万円は待機資金の中から出し、残りの6万円はFIRE運用資金に投下するとする。2003年の年末には3230万円に資産が回復する。

ただし、リーマンショックの暴落で2008年の資産は1550万円と激減する。これは調整してないモデルでも1475万円とおおきな変化はない。つまり、結果としては大きく変わらず、調整しても1年後に破産という結果には変わりがない。

リーマンショックの時に投入する

タイミングは誰にもわからない。その点では考えにくいが、仮にドットコムバブル時には耐え抜いて、より大きな下落のリーマンショック時(FIRE生活9年目の終わり)に待機資金300万円を投入したとする。2009年にかかる生活資金297万円は300万円の中から出し、3万円は運用式に投下する。この場合は2009年に資産残高が調整モデルと通常6%モデルで逆転し、残高は1700万円程度となる。

しかしながら、年間300万円取崩すということは、S&Pの平均リターンの約10%で考えても、3000万の運用資産がないといけない。よって、2009年に300万円を投入したところで、破綻を1年間遅らせるだけで、特に変わらない。

成立たせるためにはどうしたら良いのか?

待機資金を2年にしてみたら?などいろいろな疑問が浮かぶだろう。

未来から逆算するのであれば、このモデルを成り立たせることができる。そこで、6%=300万円を切崩しても、2023年末に5000万円の資産残高があるモデルを作ってみる。

FIRE生活をスタートする1999年末に2008年にリーマンショックが起こることを予測し、1999年末で3008万円で運用を開始し、1992万円は現金で保持しておく。この待機資金を2008年末に投入すると、2024年に5000万円の資産残高がありながらも、6%で取崩せるモデルが完成する。

計算としては成立つが、これができる能力がある人は地球上には存在しないだろう。よって、待機資金モデルは、難しいとする。

結論として待機資金モデルは難しい

大規模な下落基調が長年続いた2000年代を乗切るためには待機資金モデルは成り立たないと考えられる。大量に待機資金を保持する、また、適切なタイミングで投入するのは難しいだろう。

取崩し率を大きくするFIRE資産運用モデル

FIRE資金を枯渇させない方法は簡単である。各年末のFIRE運用残高に対して%を取崩していく方法だ。

この方法の良い点としては、
・ 大きな%を課しても、計算上は資産が枯渇することはない
・ 必要生活金額か、最大 X %の取崩しできる量の小さいほうというリミットをかけることでよりリスクを取ることができる
・ 待機資産モデルよりも自身の資産をマーケットに常にさらしていることになり、パフォーマンスが良い時期により多くのリターンを得れる。
ということがある、ただし、このモデルがあまり検討されない理由としては、
・ 取崩し額=生活費が資産残高に対して、一定ではないため、資産残高が減ると生活ができなくなる可能性がある
ということだ。資産は上下するが、生活費はそこまで上下できない。その為、FIREのモデルとしてはあまり検討する価値が少ないとされる。

今回は、下落局面でもできるだけ生活費を確保できるように、生活費か、それとも年間X%の取崩しか大きい方を採用するモデルを検討してみる。

最大12%まで許容するモデル

月額1%、つまり、年間最大12%まで取崩し許容するモデルを作ってみた。

このような大きな取崩し率を許容しても、2008年のリーマンショック直後の2009年は、月額生活費(月間取崩し額)は15万円しか捻出できず、月当たりの不足額は10万円にも上る。当初資産の4%で固定で取崩した場合の生活費(初年度で月額約17万円)は、2009年はインフレ調整後で月額約16万円。それよりも低い金額で暮らしていかなくてはいけない。

2012年には月間生活費は約13万円まで落ちる。標準生活費との差分は約11万円もあり、生活が成立つかは危うい。2013年も、月額14万円の生活費だ。ただし、それ以降は20万円前後の生活費で落ち着き、2025年には6%の標準生活費と同じ月額28万円の取崩しは可能となる。

ただし、4%モデルに比べてみると生活費が少なくなるのは、FIRE10年目の2009年からFIRE14年目の2013年の5年間であり、その他の年は4%モデルよりも多くの生活費で暮らしていける。その一方で2009年以降、原資産取崩し率は最大の12%に張り付いたままだ。

もちろん、資産は枯渇せずに2024年年末で2900万円程度の資産残高がある。2025年が力ず良いパフォーマンスであれば、資産は回復軌道に乗るかもしれない。

2024年末に5000万円の残高があるモデル

永久機関モデルともいえる2024年に5000万円有る場合の最大取崩し率は、9.15%だ。ただし、12%モデルでも要求生活費が負担できないということなので、もちろんこのモデルで、リーマンショックの下落局面で生活費は負担できない。

最大12%で取崩しを許容したモデルよりも、生活費は少なくなり、2009年から2013年の5年間は、取崩しが月額11万円から13万円と生活費は、標準の生活費(当初6%、300万円)の半分程度しか拠出できない。これではライフプランが狂うといってもいいだろう。

ただし、4%の取崩しモデルに比べてみると生活費が少なくなるのは、このFIRE10年目の2009年からFIRE14年目の2013年の5年間であり、その他の年は4%モデルよりも多くの生活費で暮らしていける。また、2024年末の資産残高は5000万円であることからも、今後は安定した取崩して、6%モデルの取崩しができると考えられる。

待機資金モデルよりもマシではあるが - 取崩し率を大きくするFIRE運用モデルの欠点

暴落によりFIRE運用資産が激減した場合は、例え、取崩し率が大きかったとしても、生活費が足りないという問題は解決しない。足りない生活費はアルバイトをして稼ぐなどの対応策があるが、株価が下がるときは不景気なときなので都合が良い仕事が見つからないかもしれない。

結論として:答えは出ず

2000年代での非常に悪い株式パフォーマンスのデータを使用し、株式のインデックスファンド(S&P 500)で資産を運用して、幸せに資産取崩しができる方法については考案できなかった。これが結論である。

つまり、FIRE生活において、年間300万円を使いたいのであれば、
- 4%ルールを採用する:つまり、FIRE資産を7500万円まで上げるまでFIRE生活に入らない
- ポートフォリオを組む:株式と逆相関の債券を保持し、リバランスを行いながら運用する

ということを検討する必要があるのではないか?

2000年代のパフォーマンスは異常値なのか?

2000年代のような株価の悪いパフォーマンスは、自分が生きている間に再度起こるものなのか?この質問には誰もが答えられない。

つまり、FIREにおいて固定の取崩し率を決めることは非常に難しい。上限を決めてできるだけ低い取崩し率を取れるように生活費を柔軟に考えていくのが現実的な解ではないか?

  1. のページのデータは以下のサイトで配布されているデータを元にしている:https://www.stern.nyu.edu/~adamodar/pc/datasets/histretSP.xls ↩︎
  2. 前提やデータは5000万円をS&P 500で運用したらFIREできるか?を参照してほしい。 ↩︎

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