FIREとは、Financial Independence:(給与などではなく)自らの資産で生活費を賄い、Retire Early:働かずに生きていくという、現代のビジネスパーソンの7割が希望する生き方1。皆の憧れだ。しかし、いったい資産はいくら必要なのであろうか?一般には年間生活費の25倍といわれている。例えば、月間生活費を30万円とすると30万円 X 12か月 X 25倍 = 9000万円ということになる。
9000万円はなかなかたまらないだろう。FIREで一つの目安といわれているのが5000万円。ビジネスパーソンが40歳前後で貯めるとするとこの辺りが1つの限界と考えられているだろう。
今回は、この25倍ルールを検証するためにもS&P 500に5000万円投資した場合に本当にFIREできるかどうかをシュミレーションをしてみる。
FIRE生活ルール設定:5000万円をS&P500で運用する
FIREスタートタイミングについて
FIREがうまくいくかどうかはFIRE生活をいつスタートさせるかに大きくかかわる。というのもFIRE生活で資産運用をスタートした直後に株式の暴落に巻き込まれると一気にFIRE資産を失うからだ。株式はリーマンショック時を考えると最大50%の下落がある。
その一方株式が好調の時にFIRE生活をスタートすると資金は増え続ける一方、取崩しルールを例えば4%として規律を保てば生活は増えない。S&P500は年平均10%のリターンがあるため資産が成長し、下落局面を吸収することができる。
そこで今回は、1985年(FIRE生活39年)、1990年(FIRE生活34年)、1995年(FIRE生活29年)、2000年(FIRE生活24年)、2005年(FIRE生活19年)、2010年(FIRE生活14年)と5年刻みの6パターンと取崩し率4%、5%、6%の18パターンで検証してみる。
FIRE資産運用ルール
- 特定の年の年末に5000万円を元手にFIRE生活をスタートすると仮定。
- その年末の最終営業日の終値に5000万円から次年度生活費(=5000万円 X 取崩し率)を除いた分を全額S&P 500に投資する。例えば、6%であれば300万円なので、初年度の運用資産は4700万円を投資することになる。
- 毎年年末に、前年の年間生活費(取崩した)にインフレ率を加えた加えた金額を年末に取崩す。例えば、初年度の年間生活費300万円でインフレ率が1%であれば、303万円取り崩す。
- それを毎年機械的に実施していく。取崩した金額に関しては税金を加味しない。
上記の前提を元に以下計算式を適用する
リターンの計算: S&P 500の配当込みリターン2 x ドル円の為替レート3
生活費の計算: 日本のCPI4
S&P500で5000万円を運用&取崩してみた:試算
1985年にFIRE生活をスタートさせた場合 取崩し率 4%/5%/6%
取崩し率が6%場合でも2023年末の資産残高は1.5億円である。6%の場合は、月間生活費25万円で1985年にスタートして、2023年にはインフレ影響で31.2万円になる。現在の生活費が31.2万円と考えると現実的な額である。
尚、4%の場合は2023年末の資産残高は7.2億円になっている。明らかに取崩し率が少ないだろう。
1990年にFIRE生活をスタートさせた場合 取崩し率 4%/5%/6%
取崩し率が6%場合でも2023年末の資産残高は2.5億円である。尚、4%の場合は6億円になっている。明らかに取崩し率が少ないだろう。
1995年にFIRE生活をスタートさせた場合 取崩し率 4%/5%/6%
取崩し率が6%場合の2023年末の資産残高は6億円である。尚、4%の場合は8億円になっている。FIREスタートのタイミングが良いとこのように資産がかなり増えることとなる。
2000年にFIRE生活をスタートさせた場合 取崩し率 4%/5%/6%
2000年にFIREをスタートした場合は厳しい運用状況になる。というのも2000年のドットコムバブル崩壊の影響で、2000年から2003年は株式市場がマイナス成長であるからだ。
6%取崩しルールだと2017年に資産がマイナスになる。しかしながら4%ルールだと2023年末の資産は9000万円と十分すぎる残高だ。
5%だとリーマンショック以降の資産推移は横ばいだ。これは、2008年に約1800万円の資産に対して、250万円(5000万円の5%なので)の取崩しを行うというルールでスタートしたと同じことだ。この年の取崩し率は14%になる。このモデルでは2023年までは、10%から17%の取崩し率が適応されるが、リーマンショック以降のS&P 500の力ず良い成長で資産は横ばいに保つことができる。
もし、2023年以降数年株高が続けば、5000万円の資産に復活することも夢でもないが、次の大暴落が数年以内に来ると破綻する可能性も十分にある微妙なラインである。
尚、6のパターンで2000年スタートだけが、取崩し率によってFIRE生活が破綻するか、破綻しないかの分かれ道になるモデルである。
2005年にFIRE生活をスタートさせた場合 取崩し率 4%/5%/6%
取崩し率が6%場合でも2023年末の資産残高は1億円である。尚、4%の場合は2億円になっている。タイミングが良い時期にFIREすると資産運用的には安心という良い例だろう。
2010年にFIRE生活をスタートさせた場合 取崩し率 4%/5%/6%
資産運用は年月が長いほど有利というが、それだけでなく株式市場の下落巻き込まれるタイミングというのも重要だ。以下の例では、2005年から資産運用をした資産と比べても運用期間は5年短いが、2023年の資産残高は多い。尚、取崩し率6%でも、資産残高は2.5億円となっている。
FIRE生活を成功させるための答え
試算結果をまとめてみるとドットコムバブル崩壊直前にFIRE生活をスタートした2000年の取崩し率6%以外はすべて成功ということだ。18パターン中、17パターンが成功ということになる(成功率95%)。また、2000年スタート以外はすべて最終資産は1億を超えている。
FIRE生活がうまくいくかどうかというのは、自分がコントロールできる取崩し率の4%から6%の選択はそこまで関係ない。スタート時期と株式の大暴落の時期の関係性という運の部分のほうが大きいということになる。これがFIREにおいて資産がいくら必要かというのを難しくしているといえる。
尚、FIRE生活における最適な取崩し率を知りたい方はこちらの記事:S&P 500でFIREする際の黄金取崩し率は?を参考にしてほしい。
この試算で注意したいポイント
以下が生活費アップに使ったCPI総合指数の動きである。以下の点線で囲った部分である1993年から2021年までの年間平均インフレ率は0.1%である。
つまり、過去35年の中で29年間(83%の期間)は全く日本はインフレしていない。その間にアメリカ経済は成長してインフレが起きている。それは株価成長にも反映している。
つまり、全くインフレしない日本に生活しながらも、インフレを伴う経済成長をしているアメリカ株式市場の利益を享受するという、FIRE生活をS&P500の運用益で賄うという意味ではベストシーズンであった。このことも考慮に入れる必要はあるだろう。