FIRE研究

資産運用はアセットアロケーションを考えることから始める

資産運用をスタートするというとオルカンかS&P 500が良いのかや、個別銘柄、例えばNTTが良いのか?という投資商品の話になることが多い。しかし、古典的な資産運用の教科書では、資産運用はまずはアセットアロケーションを考えるところからスタートする。

このアセットアロケーションとは何のか?

アセットアロケーションとは何か?

アセットアロケーションとは、投資資産(アセット)を異なる資産クラスやカテゴリに分散する(アロケーション)こと。具体的には、株式、債券、不動産、商品、現金などの配分を決めることだ。この記事ではデータが豊富な米国経済を例にとりながらアセットアロケーションがなぜ重要かを解説していきたい。

株式が常に利回りが良い:アセットアロケーションは不要?

まず、アセットアロケーションをしなくても良いという考え方もある。下の図が過去10年から50年の主要な資産クラスの年平均利回り(ドル建て)1を示したものである。どの期間をとっても圧倒的に株式のリターンが良い。

S&P 500 配当込みリターン(株式)米国10年債(債券)米国不動産
過去50年平均リターン (1974-2023)11%6%5%6%
過去40年平均リターン (1984-2023)11%6%5%4%
過去30年平均リターン (1994-2023)10%4%5%6%
過去20年平均リターン (2004-2023)10%3%4%8%
過去10年平均リターン (2014-2023)12%1%7%6%

株式は10%から12%の利回りを示し、どんな機関と比較しても最も利回りが高い。つまり、株式のみに投資をすれば良い、アセットアロケーションは不要だという議論だ。もちろん、主力資産クラスを株式にするのは推奨されているが、株式だけだと運用上問題を抱えやすい。それは株式が大暴落したらどうするのか?ということである。

株式には大暴落がつきものである

定期的に株式の大暴落が襲ってくるがいつ襲ってくるかはわからない。この大暴落時にも資産運用者(特に年金生活者やFIRE生活者)は生きていかなくてはいけない。資産から安定的に利回りを出すために、価格の変動が少なく、株式下落時にプラスの利回りを出す債券を資産運用に混ぜるということがアセットアロケーションが必要な理由だ。

株式の下落時の各アセットの動きを学ぶ

他のアセットが必要な理由は株の大暴落である。つまり、大暴落の際にどのような値動きを学べばアセットアロケーションについての理解が進む。2000年以降大きな株式の下落は3回あった。

(1)ドットコムバブル崩壊(2000年から2003年)

債券、不動産、金(2000年以外)は上昇した。理由としては、不景気になると金融刺激策がとられて、中央銀行が景気刺激策として金利を下げる。金利を下げるということは債券価格が上がるということになる。安定資産の金は、2001年の世界同時多発テロ、つまり、戦争によって急騰した(このイベントは株価の下落に拍車がかかった)。ハイテクバブル崩壊だったため、不動産については堅調なリターンを出した。つまり、この時には株と債券、金、不動産のバランスがワークした。

(2)リーマンショック(2018年)

リーマンショックとは不動産担保ローンを中心としたバブル崩壊=金融システムの崩壊である。バブルが起こっていたということは景気も良く、景気が良い時には金利が高い。つまり、中央銀行が金利を下げ債券価格は上昇した。また、金融不安から安全資産の金の価格も上昇した

リーマンショック時は米国債券を多く含んだレイダリオのオールウェザーポートフォリオ戦略が堅調なパフォーマンスを見せた2。株価下落には債券を含んだポートフォリオの重要性が確認できた。ただし、リーマンショックは不動産バブル崩壊だったため、不動産に関する利回りはその後長期低迷することになる。

(3)コロナバブル崩壊(2022年)

(1)と(2)とコロナバブル崩壊時は経済の状況が大きく異なる。コロナ禍の景気刺激策からすでに金利が下がりきっていた。つまり、コロナバブルは政府が作り出したバブルでそれによりインフレが進行したというものであった。インフレ退治のために中央銀行が、金利を急激に上昇させた結果、株式下落局面で米国10年債の利回りもマイナスとなった。これは非常に異例の経済状況で、過去にさかのぼると1969年以来起こってない53年ぶりの例外と捉えたほうが良いだろう。2022年はある意味どのアセットも悪いパフォーマンスが投資家にとっては最悪の年となった。

各アセットの値動きと債券の不人気化と金の人気化

3つの株式暴落時の株式と債券の値動きで見ると(1)と(2)は似ているが(3)は異なる。投資には絶対にというものがなく、すべてが経済の状況で決まってくる。つまり、アセットロケーションを考える際にはこのような経済の動きも知っておくと良い。

債券の人気がどんどん落ちている。というのも(3)の際にあまり効果がなかっただけなく、過去10年という期間で見るとリーマンショック以降は世界的に低金利の時代だったので債券の利回りが良くなかった(前述の表を参考)。ただしこれも一つの流行である。尚、金は最近パフォーマンスが良く人気化している。

このようなことから株+債券から、株+金とするケースが多いが、これが良いかはすべては経済状況による。

上記のグラフは各アセットの50年分の利回りの分布を表した箱ひげ図である。箱のような部分に50%の各年の利回りの分布が収まるという図である。この図からわかることとしては、各年の利回りのブレが一番少ないのは不動産、次が債券。金は株式よりもブレ幅は大きいということがわかる。

金は安定資産と言われているが2020年以降の主要アセットの利回りのチャートでもわかるように値動きが大きいものだ。金は金融不安と戦争勃発などでの局面で急速に人気化する。これが値動きが大きい理由だろう。ただし、株価が下がるのは金融不安と戦争勃発だけではない。

その点、歴史的には債券のほうが株式を補完するというロジックが成立ちやすい。株式が下落する局面は直前まで好景気であり、不景気の見通しが出てきて一気に下落する。好景気であれば金利が高く、金利を下げて景気を刺激する余裕が有るはずであり、それが債券価格の上昇を生むのだ。

アセットアロケーションとは:利回りを下げて安定性を増す

アセットアロケーションとは株式だけでなく他のアセットを混ぜることで、全体の利回りは下がるが資産運用の安定性を上がるという考え方なのである。

つまり、どのようなアセットアロケーションをするかは、どのくらい投資リスクが負えるかということなのだ。投資リスクは、1) 年齢、2) 年収、3) 金融資産、4) 投資目的、5) 資産が急落時の対応の5つのポイントから判断していくことになる。具体的に自分自身はどのようなリスクを負えるのか、どのようなアセットアロケーションが良いのかはこちらの記事を参考にしてほしい

ここでは大枠としての考え方を提示したい。

現役バリバリで資産形成を進める時期のアセットアロケーション

若いうちはリスクが取れる(どのようなリスクがあるかわかっている)ということだあれば、株式100%のアセットアロケーションでも構わない。また、運用資金が数百万程度であれば、とにかく淡々と株式を積立てるという資産運用をしても良い。

ただし、実際にはこのような話は成立たない。というのも、初心者は経験の少なさから株価下落時に資産を売ってしまうという下落耐性がないケースが多い。つまり、下落を緩和するために株を全体の75%程度で運用するのが良いだろう。

リタイアが視野に入ってきたときのアセットアロケーション

リタイアが視野に入ってきた際には、徐々に株式中心のアセットアロケーションから、債券を中心にしたアセットアロケーションに変化させていくことだ。また、株式でもJEPIのような下落耐性に強い商品を選んでいくことも重要だ。

リタイヤ(FIRE)後のアセットアロケーション

資産を増やすよりも資産を守るということを考えていかなくてはいけない。株式のみだと長期的みるとかなりのドローダウンが起こる。是非ともFIRE卒業を避けるためにも現実的なFIRE生活、退職後ライフを設計するためにこの記事を読んでほしい

アセットアロケーションの結論:S&P 500か、オルカンかよりも大事なこと

アセットアロケーションは長期で資産運用をするために考えられた仕組みである。資産運用は長期でやれば必ず勝てる。ポイントは資産価格の変動によりなかなか長期でできないことなのだ。その為に、是非アセットアロケーションを検討してほしい。

  1. pages.stern.nyu.edu/~adamodar/New_Home_Page/datafile/histretSP.htmlからデータを取得した。 ↩︎
  2. ダリオ氏考案の戦略、成績低迷で投資家が逃避-かつての人気から一転 - Bloomberg ↩︎

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