FIRE研究

資産運用はアセットアロケーションを考えることから始める

2024年9月30日

資産運用をスタートする際には、「オルカンとS&P 500はどっちが良いのか?」や、個別銘柄の選定、つまり「NTTは初心者向きなのか?」という個別の投資商品の話になることが多い。しかし、古典的な資産運用の教科書では「資産運用はまずはアセットアロケーションを考える」ところからスタートする。

アセットアロケーションとは何か?

アセットアロケーションとは、投資資産(アセット)を異なる資産クラスやカテゴリに分散する(アロケーション)こと。具体的には、株式、債券、不動産、商品、現金などの配分を決めることだ。この記事ではデータが豊富な米国経済を例にとりながらアセットアロケーションがなぜ重要かを解説していきたい。

株式が常に利回りが良い:アセットアロケーションは不要?

まず、アセットアロケーションをしなくても良いという考え方もある。下の図が過去10年から50年の主要な資産クラスの年平均利回り(ドル建て)1を示したものである。株式が10%から12%の利回りを示し、どの期間のどの資産クラスと比較しても利回りが高い。

S&P 500 配当込みリターン(株式)米国10年債(債券)米国不動産
過去50年平均リターン (1974-2023)11%6%5%6%
過去40年平均リターン (1984-2023)11%6%5%4%
過去30年平均リターン (1994-2023)10%4%5%6%
過去20年平均リターン (2004-2023)10%3%4%8%
過去10年平均リターン (2014-2023)12%1%7%6%

これを見ると「株式のみに投資をすれば良い」、つまり、「アセットアロケーションは不要だ」という結論になる。もちろん、主力資産クラスを株式にすることは推奨されている。だからと言って株式だけの資産運用では、株式が大暴落したらどうするのか?という問題を解決できない。

長期的なリターンの実現には、株が大暴落したときに売らないで保持しないといけないからだ。過去の暴落局面を見れば「株価下落に備えて精神力を鍛える」といってもそれは現実的な解決策にはならない。2022年にFIRE卒業というキーワードが盛上ったのがその証拠だ。

株式には大暴落がつきものである

問題の株式の大暴落は、定期的に襲ってくるがいつ襲ってくるかはわからない。この大暴落時にも資産運用者(特に年金生活者やFIRE生活者)は生きていかなくてはいけない。資産から安定的に利回りを出すために、価格の変動が少なく株式下落時にプラスの利回りを出す債券を資産運用に混ぜる必要があるというのが、アセットアロケーションが必要な理由ともいえる。

株式の下落時の各アセットの動きを学ぶ

繰り返しになるが他のアセットアロケーションが必要な理由は株の大暴落である。つまり、大暴落の際にどのような値動きをするかを学べばアセットアロケーションについての解が出る。2000年以降に起こった3回の大きな株式の下落を見ていこう。

(1)ドットコムバブル崩壊(2000年から2003年)

債券、不動産、金(2000年以外)は価格が上昇した。理由としては、不景気になると金融刺激策がとられて、中央銀行が景気刺激策として金利を下げる。金利を下げるということは債券価格が上がるということになる。バブル崩壊ということは、暴落時には景気が良かった=金利は高かったということが言える。

尚、安定資産の代表格である金は、2001年の世界同時多発テロ、つまり、戦争によって急騰した(このイベントは株価の下落に拍車がかかった)。また、比較的に株式と相関性が高いといわれる不動産については、株式がハイテクバブル崩壊だったため、この時期は堅調なリターンを出した。つまり、この時には株と債券、金、不動産のバランスによって、資産下落の打撃を緩和できた。

(2)リーマンショック(2018年)

リーマンショックとは不動産担保ローンを中心としたバブル崩壊=金融システムの崩壊である。バブルが起こっていたということは、この時も直前までは景気も良く、金利も高かった。中央銀行が金利を下げる余力があり債券価格は上昇した。また、金融不安から安全資産の金の価格も上昇した。ただし、リーマンショックは不動産バブル崩壊だったため、不動産に関する利回りはその後長期低迷することになる。

このような状況から、著名投資家であるレイ・ダリオ氏が考案した米国債券を多く含んだオールウェザーポートフォリオが堅調なパフォーマンスを見せた2。これが、投資家としてのレイ・ダリオ氏の名声の確率や、米国債券が株式相場下落の対策になるという例によく使われている。

(3)コロナバブル崩壊(2022年)

(1)と(2)とコロナバブル崩壊時は経済の状況が大きく異なる。コロナ禍の景気刺激策からすでに金利が下がりきっていた。つまり、コロナバブルは、コロナ禍によって起きた経済活動の打撃を経済緩和(補助金のバラマキや金利を下げたことによる景気刺激)によって政府が作り出したバブルでそれによりインフレが進行したというものであった。ドットコムバブルはハイテクセクター、リーマンショックは不動産セクターを起因としていたが、コロナバブルはハイテク企業の株価は上がっていたものの全体的に金余りが起こしたバブルである。

その結果、インフレ退治のために中央銀行が、金利を急激に上昇させ、経済の締め付けが必要があった。その為、株式が下落する中、金利上昇により米国10年債のリターンもマイナスとなる、株価と債券のダブル安となった。

この主要アセットの2つがダブル安となるのは、異例の経済状況ともいえる。米国経済の歴史を過去にさかのぼると1969年以来起こってない53年ぶりの例外が起こったのだ。2022年はある意味どのアセットもパフォーマンスがそれほど良くない、投資家にとっては最悪の年となった。

各アセットの値動きと債券の不人気化と金の人気化

3つの株式暴落時の株式と債券の値動きで見ると(1)と(2)は株式暴落のクッションになったが、(3)はならなかった。そして、人は最近のことのほうがより鮮明に覚えている。その結果、債券の人気がどんどん落ちているというのが実情だ。

もっと言えば、過去10年という期間で見るとリーマンショック以降は世界的に低金利の時代だったので債券の利回りが良くなかった。それでも、いつかの下落のために持っていた投資家も、2022年にクッションにならなかったという理由で、アセットアロケーション先としての債券に見切りをつけてしまったのであろう。

それに比べて、金は最近パフォーマンスが良く人気化している。このようなことから株+債券のアセットアロケーションより、株+金のアセットアロケーションを薦める論調や投資商品が有力だ。例えば、そのリターンの高さから、投資金額の2倍のレバレッジをかけて、S&P 500と金を投資金額と同額の運用する投資信託、Tracers S&P500ゴールドプラス3などが人気化している。ただし、これはあくまでも最近のリターンのみを考慮したものと言えよう。

上記のグラフは各アセットの50年分の利回りの分布を表した箱ひげ図である。箱のような部分に50%の各年の利回りの分布が収まるという図である。この図からわかることとしては、各年の利回りのブレが一番少ないのは不動産、次が債券。金は株式よりもブレ幅は大きいということがわかる。

金は安定資産と言われているが2020年以降の主要アセットの利回りのチャートでもわかるように値動きが大きいものだ。金は金融不安と戦争勃発などでの局面で急速に人気化する。これが値動きが大きい理由だろう。ただし、株価が下がるのは金融不安と戦争勃発だけではない。例えば、昨今言われるAIバブルが崩壊した際に金は人気化するであろうか?

歴史的には債券のほうが株式を補完するというロジックが成立ちやすい。株式が下落する局面は直前まで好景気であり、不景気の見通しが出てきて一気に下落する。好景気であれば金利が高く、金利を下げて景気を刺激する余裕が有るはずであり、それが債券価格の上昇を生むのだ。

アセットアロケーションとは:利回りを下げて安定性を増す

アセットアロケーションには悪いところもある。株式のみの運用ではなく他のアセットを混ぜることで全体の利回りは下がる。これの引換えとして資産運用の安定性を上がる"だけ"であるのだ。

つまり、どのようなアセットアロケーションをするかは、どのくらい投資リスクが負えるかということなのだ。投資リスクは、1) 年齢、2) 年収、3) 金融資産、4) 投資目的、5) 資産が急落時の対応の5つのポイントから判断していくことになる。具体的に自分自身はどのようなリスクを負えるのか、どのようなアセットアロケーションが良いのかはこちらの記事を参考にしてほしい

ここでは大枠としての考え方を提示したい。

現役バリバリで資産形成を進める時期のアセットアロケーション

よく、若いうちはリスクが取れるので、株式100%のアセットアロケーションでも構わないという論調を聞く。資産を失っても長い人生で取り返しがつくからだ。確かにこれも一理があるが、やはり株式の暴落時の行動を考えていくのがアセットアロケーソンの基本だ。前述したが、アセットアロケーションが生まれたのは株式の大暴落対策からだ。

つまり、年齢よりも投資経験を中心に考えていった方が良い。投資初心者は経験の少なさから株価下落時に資産を売ってしまうという下落耐性がないケースが多い。現役バリバリで資産形成を進める人の中で、投資経験が豊富な人は、株式100%のアセットアロケーションで良いだろう。そうでない人は株式は75%から80%程度にとどめ、株式市場は定期的に大暴落するということを考えながら運用していくのが良いのではないか?

リタイアが視野に入ってきた時期&リタイア(FIRE)後のアセットアロケーション

リタイアが視野に入ってきた際には、株式の一部を債券に徐々に移していくのが望ましいとされる。

老後の資産形成用にターゲットイヤーファンドというものがある。これは、引退する年=ターゲットイヤーを設定し、その時間軸にそって資産形成を進めていくファンドだ。各ファンドいろいろなアセットアロケーションで特色を出しているが、共通することは最初は株式は多めで運用し、ターゲットイヤーに近づくにつれて債券を増やしていくといことだ。

ターゲットイヤーファンドは最終的には、ほぼ国内債券で運用するという方針のファンドが多い。しかし、FIREの4%取崩しルールの原典とも言われるトリニティスタディでは、引退後もポートフォリオに株式を入れることの重要性を謳っている。トリニティスタディを参考にすれば債券比率は25%から50%程度に抑えるのが良いのではないか?尚、株式のみ運用だとかなりのドローダウンが起こることは覚悟した方が良いだろう。

また、リタイア後は、資産を増やすよりも資産を守るということを考えていかなくてはいけない。その為、あれこれアセットを入れ替えるのも良くないだろう。アセットアロケーションは、リタイアする前までに整えておいた方が良いだろう。

アセットアロケーションの結論:S&P 500か、オルカンかよりも大事なこと

アセットアロケーションは長期で資産運用をするために考えられた仕組みである。資産運用は長期でやれば必ず勝てる。ポイントは、株式の大暴落局面でも運用を継続できるようにすることだ。その為に、是非アセットアロケーションを検討してほしい。

  1. pages.stern.nyu.edu/~adamodar/New_Home_Page/datafile/histretSP.htmlからデータを取得した。 ↩︎
  2. ダリオ氏考案の戦略、成績低迷で投資家が逃避-かつての人気から一転 - Bloomberg ↩︎
  3. Tracers S&P500ゴールドプラス【02315228】:投資信託情報 - Yahoo!ファイナンス ↩︎

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