2024年から始まった新NISAをきっかけに積立投資を始める人に、全世界の株価に連動するオルカンか、もしくは、アメリカの株価に連動するS&P 500のどちらか薦めるというのが昨今のトレンドになっている。
この2つのファンド「どちらも選んでもほぼ一緒なのでは?あまりこだわることはない」と解説されているケースもあるがそれは本当だろうか?初心者は、オルカンとS&P500のどっちを選んだほうがだろうか?について考えてみたい。
1. 過去36年でS&P 500はオルカンの2.4倍に成長した?
一般に投資に求めるのは儲かるということ。それならばS&P 500のほうが圧倒的にリターンが高い。オルカンが連動するのは、MSCI ACWIという指数であり1987年12月末に設定された。つまり年間という意味では、2023年12月末までの36年分のデータを使って比較してみる(このデータは配当込みリターンの数字である1)。
S&P 500のほうがオルカンに対して約2.4倍ほど成長したといえる。
以下が、1987年末に1ドル投資していた際の株価の動きを示したグラフである。S&P 500に投資すればこの36年間で40.5ドルになっている。その一方、オルカンでは16.5ドルにしかならない。パフォーマンスの差は2.44倍ある。この差はどちらでも一緒とは言える差ではないのではないか?
年間平均株価成長率、つまり、1年間の平均リターンで見てみると、
S&P 500 11.3%
オルカン 8.6%
と、年間2.7%もS&P 500のほうがリターンが高い。
5000万円運用で月9万円の差が生まれる?
5000万円をFIRE資金として用意したとすると、S&P 500で運用した場合は年間平均564万円(月額:47万円)のリターンが得られる。オルカンは年間平均428万円(月額:36万円)となる。月に直すと9万円ほど運用成績が違うということだ(すべては税引き前の数字)。
リターンを考えればS&P 500がオルカンよりも優れていると考えられる。
2. オルカンのほうがS&P 500に対して安定してパフォーマンスが悪い?
1では、年間平均パフォーマンスを見てきた。36年間を1年ごとのパフォーマンスを観察していきたい。以下が、オルカンからS&P 500のリターンを引いたグラフ。グラフの数字が0%以上であればオルカンのほうがパフォーマンスが良い。
オルカンがS&P 500に年間リターンで勝利した年はオレンジ、オルカンがS&P 500に負けたとしては青にプロットしている。
期間 | オルカン勝利 | S&P 500 勝利 |
---|---|---|
36年のデータ | 13回(36%) | 23回(64%) |
直近20年 | 8回(40%) | 12回(60%) |
直近10年 | 2回(20%) | 8回(80%) |
35年で見ると、オルカンがパフォーマンスが良かったのは1/3程度であり、直近10年ではオルカンがS&P500よりもパフォーマンスが良かったのは2017年と2022年の2回。しかし、2022年はほぼ同じパフォーマンスが同じであった為、明確にパフォーマンスが良いのは直近では10回に1回ということになる。
オルカンがS&P 500を連続してパフォーマンスを凌駕して時期もある。上記のグラフの灰色の点線の部分。2002年から2007年のリーマンショックの前までの期間のみである。これはアメリカ経済が、ドットコムバブル崩壊の後遺症からS&P 500が伸び悩んでいた、それに対して世界経済は、新興国がBRICSブームで調子が良かった時期である。
ただし、これは36年の中で6年ほどの期間である。直近では世界経済よりもアメリカ経済が強く、AIをはじめとしたイノベーションは常にアメリカら起こっている。つまり、S&P 500が優勢な状況は2024年も続くだろう。
オルカンがS&P 500のパフォーマンスを上回るためには、新興国の経済成長及び株価の動きが重要だといえる。
3. 分散しているオルカンだが、S&P 500に比べて下落耐性があるとは言えない?
オルカンが連動する株価指数であるMSCI ACWIは、銘柄数2800銘柄、グローバルの株式市場の約85%をカバーしている2。S&P 500のアメリカ市場の500銘柄で、米国株式市場の時価総額の約80%をカバーしている3。
オルカンのほうが分散している為、下落耐性があるのではないか?という推察が成立つ。そこで、経済が悪く株式のパフォーマンスが悪かった時期、ドットコムバブル崩壊後とリーマンショック時を見ていきたい。
株式市場崩落時のパフォーマンス:ドットコムバブル崩壊時
オルカンがS&P500よりもより大きく下落しているというのが結論だ。ドットコムバブル崩壊の直前の1998年から1999年は円高が進行しており、1999年末のドル円レートは102円であった。この円高の是正傾向があり、2000年のドットコムバブル崩壊によるS&P 500の下落は円建てでは、それほど大きな影響は出なかった。オルカンもドル建てでは大きく下落しているが、その影響は軽微であった。
ただし、S&P 500に比べてオルカンが下落耐性があるとは言えない。というのも、オルカンのほうがS&P 500に比べて、2000年、2001年とパフォーマンスが悪かった。ドットコムバブル崩壊はアメリカ発祥の経済イベントだったのにかかわらずである。
株式市場崩落時のパフォーマンス:リーマンショック時
リーマンショック時は、株価下落と円高というダブルパンチが起きた。これは考えやすいシナリオである。アメリカ発の経済危機が発生した場合は、アメリカの株価が下がる。それだけでなく、ドルが売られて安全資産である円が買われるということも起こりやすい。
この状況でも2008年のオルカンのパフォーマンスはS&P 500よりも悪かったのだ。オルカンには下落耐性があるとは言いにくいのだ。
4. オルカンがS&P500に凌駕した2002年から2007年を詳しく分析
それでも、オルカンを選びたいということで、オルカンのリターンがS&P 500 よりも良かった2002年8月末から2014年7月末までのパフォーマンスを詳細にみていきたい。以下が2002年8月末に100ドルをオルカンとS&P 500に投資した際の月毎のパフォーマンスである(値動きを見るためにこのデータはプライスインデックスである)。
BRICSブームで新興国の株式が盛り上がった影響でオルカンは5年で2.1倍と、ドットコムバブルの後遺症に苦しむ米国市場のS&P 500の1.7倍をアプトパフォームしている。ただし、リーマンショックでの下落率はS&P 500を上回る -56%となり、分散しているオルカンはこの下落時にS&P 500以上に下落した。
リーマンショックはアメリカ発の金融危機だ。そういうこともあり2年ほどは再びS&P 500よりもオルカンのほうがパフォーマンスは良い。しかし、世界経済の中心地であるアメリカは力ずよく復活すると、2014年7月末にはほぼ同じリターンとなった。
この先は、ご存じのようにS&P 500が力強い成長を見せていく。これを見る限りに
・大型の新興国(例えば、インドや中国)が米国よりもかなり力強く経済発展する
・米国で大きな景気後退が起こりその回復に苦しむ
という2つのストーリーのいずれか、もしくは、両方が成り立たないと、オルカンがS&P 500をアウトパフォームすることは難しい。
現在世界経済の中心はアメリカであり、多くの国の景気がアメリカ経済に依存している。昨今のAIブームもアメリカ発ということで、なかなかオルカンがS&P 500よりもパフォーマンスが良いということをイメージしにくい状況だ。
S&P 500は常にオルカンよりもパフォーマンスが良かったわけではない。ただし、世界経済はどんどんアメリカ依存になっており、オルカンがS&P 500よりもパフォーマンスが良いというシナリオが立てにくくなっているのも事実だ。
5. オルカンもS&P 500も将来は未知だが分散しすぎ理論
現時点では、オルカンとS&P 500については、どっちを買ってもほぼ同じというというほどパフォーマンスが類似しているわけではない。圧倒的にS&P 500のほうがパフォーマンスが良い。
これの理由の一つに、短期リターンを追わない長期投資におけるパフォーマンスという意味では、すでに時間という意味で分散が出来ている。そのうえで、さらに分散するために2800銘柄に投資する必要があるか?という疑問がある。
分散と集中では、分散すればリスクは低くなり集中すればリターンが高くなるということだ。集中しすぎも、分散しすぎもよくない。全世界の経済成長をとらえるのであれば、ノイズを取除くためにもその時代に適した会社を選ぶべきである。その為に2800社も必要かというと疑問がある。これはS&P 500ですら500社も必要なのか?という疑問もあるくらいだ(詳しくはS&P 500が最強インデックスなのか? (enjoy-investments.com)を閲覧してほしい)。
ポートフォリオという視点では、最低30銘柄程度あれば分散できるという考え方が主流だ*34。
本記事のオルカン vs. S&P 500の比較はあくまでも過去データの比較である。つまり、将来のパフォーマンスについては誰もわからない。記事で紹介できるのは、オルカンが有利になる場面、S&P500が有利になる場面だけある。
投資は常に、自分が信じる銘柄に投資するほうが納得感があって良いというのが結論だ。あなた自身が、この記事を読んでオルカンとS&P500のどちらの株式指数に投資するのに納得感があるかだけだ。
結論としては、どっちを選んでも一緒と言えないほどパフォーマンスに差がある。歴史は、S&P 500のほうが力強いパフォーマンスを見せている。下落耐性についても評価することはできないとなる。
6. オルカン vs. S&P 500のデータを紹介
36年分のデータを並べてみるとS&P500もオルカンも為替の影響が大きいことがわかる。
1987年年末に1ドル投資していたら
インデックス | 年平均成長率 |
---|---|
オルカン トータル(Gross)リターン (円建て) | 8.6% |
オルカン トータル(Gross)リターン(USD) | 8.1% |
S&P 500 トータル(Net)リターン(円建て) | 11.3% |
S&P 500 トータル(Net)リターン(USD) | 10.8% |
1987年年末に1ドル投資していたら(配当を再投資しなかった場合)
インデックス | 年平均成長率 |
---|---|
オルカン トータルリターン (円建て) | 5.7% |
オルカン トータルリターン(USD) | 6.1% |
S&P 500 トータルリターン(円建て) | 9.0% |
S&P 500 トータルリターン(USD) | 8.6% |
オルカン年率リターングラフ(円&ドル)
S&P 500年率リターングラフ(円&ドル)
実際には配当には税金がかかることやファンドには運用手数料が掛かります。この試算は指数を元にした試算です。投資したらこの通りになるになるという訳ではありません。
- オルカンのデータは、MSCI社のhttps://www.msci.com/end-of-day-data-searchから取得した。データは配当込み(Gross)、通貨はUSDとした。S&P 500の配当込みリターンのデータは、pages.stern.nyu.edu/~adamodar/New_Home_Page/datafile/histretSP.htmlから取得した。尚、このS&P 500のデータは配当&税金考慮済みのネットリターン、オルカンは配当考慮済みであるが配当に関わる税金を加味していないグロスリターンである。差分がどのくらい出るかについては、オルカン(全世界株式)の利回りはいくつなのか? (enjoy-investments.com)を参考にしてほしい。円のデータは米ドル/円レートの年間価格(年足)|時系列データ|株探(かぶたん) (kabutan.jp)から取得した各年末ドル円レートをそれぞのデータに掛け合わせた計算値である。MSCI社やS&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社のオフィシャルデータではないことをご留意いただきたい。
↩︎ - 8d97d244-4685-4200-a24c-3e2942e3adeb (msci.com) ↩︎
- S&P 500 | S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス (spglobal.com) ↩︎
- ウォール街、30銘柄で分散投資は「妄想」-不運避けるには最低200必要 - Bloomberg この記事で紹介している新説は30銘柄では不十分といっている。逆説的に言うと一般的には30銘柄程度あれば分散が効くとされているが広く知られていることが伺える。 ↩︎