QYLDという米国ETFが人気になってから久しい。約12%と高配当が人気の理由だ(過去1年で11.69%1)。その一方「QYLDはやめておけ」という意見も散見される。その理由は、高配当投資信託やETFには避けては通れないタコ足配当を実施しているということだ。
批判もありながらもQYLDは、ネット証券等でドル建て米国ETF(米国株式)としてしか買えなかったが、最近では、QYLDに日本円で投資できるようにした投資信託「一歩先いく NASDAQ-100 毎月カバコ戦略(QYLD)2」が設定されるほど注目を集め続けている。
そもそもタコ足配当は本当に悪いものだろうか?今回は高配当ETFであるQYLDとそのパフォーマンス、タコ足配当について考えてみたい。
QYLDとは何か
QYLD(Global X NASDAQ 100 Covered Call ETF)とは、NASDAQ 100指数に含まれる株式を保有し、保有する株式のコールオプションを売却する、カバードコール戦略を取った米国上場ETFのティッカーシンボルである。
QYLDの投資戦略はあくまでも安定した分配金の創出である。よって資産拡大期というよりも、リタイア後のような分配金生活時に検討となるファンドである。
NASDAQ 100 インデックスに連動したファンドではない
QYLDの正式名称にNASDAQ 100とは入っているので、NASDAQ 100 インデックスに連動したファンドと誤解する人がいるがQYLDはNASDAQ 100とパフォーマンスを比べられるようなインデックスファンドではない。
NASDAQ 100企業による配当金による運営を目指していない
NADAQ 100は、配当金が少ないハイテク企業が多く含まれるインデックスである。2024年の6月時点での配当率0.81%3と、S&P 500の4と比べて低い。つまり、企業の配当金を原資に分配金を作り出そうという訳ではない。
NASDAQ 100 インデックスへの連動は目指していない
カバードコール戦略は株価の値動きの上下があった場合のほうがオプション収入が多い。QYLDの投資戦略は、値動きの上下運動が激しいNASDAQ100指数に注目し、そのコールオプション売却によってオプション収入を生み出し、それを分配金の原資の一部として配布するということだ。
つまり、NASDAQ 100指数の価格に連動するファンドではなく、QYLDのパフォーマンスをNASDAQ 100と比べるのはナンセンスだ。
QYLDはインデックスファンド
尚、QYLDは連動するインデックスがありインデックスファンドともいえる。連動するインデックスは、NASDAQ 100にリストされている企業とその割合を使って、カバードコール戦略を取った場合の結果であるインデックス「CBOE NASDAQ 100・バイライト・V2・インデックス」5に連動する。アクティブファンドでないためオプション運用を行っているがETFの運用手数料も0.61%6と高くない。
QYLDのパフォーマンス評価とタコ足配当の関係
ここまで見てくるとQYLDの意味が分かってくる。安定した配当をカバードコール戦略で産出しているかだ。この戦略を続けるためには、オプション販売の元資産となる運用資産が減らないということが重要だということがわかる。
つまり、QYLDのパフォーマンスは評価はあくまでも
・安定した分配金を出し続けるために運用資産はすり減らしていないのか?
に絞られる。
運用資産が減る理由は、
・NASDAQ 100指数のパフォーマンスが振るわないということと(NASDAQ 100指数のパフォーマンスについてはこちらを参考に)
・分配金を出しすぎて、結局運用資産の取崩しなっていないか?
という2つの理由がある。
タコ足配当とは、この分配金を出しすぎて、運用資産の取崩しを行っている状況だ。
タコ足配当とは
タコ足配当というのは、企業やファンドが利益ではなく、自身が保有している資産から配当を出すことを指している。これはタコが自分の足を食べることから名付けられている。下記がQYLDの収支を解説したものである7。
2023年の収支を見てみると
Aは、期初に16.15ドルの価値を持っている。
Bは、運用によって2.49ドルを得たとしている。
Cは、分配金を2.04ドル払ったとしている。
Dは、期末の価値であるが16.60ドルの価値があるという意味だ。運用資産は0.45ドル(+2.8%)増えている。つまり、2023年はQYLDはタコ足配当は行っていない。
これが、2022年になると、22.82+(-4.08-2.59)=16.15ドルと、6.67ドル分(約-29%)運用原資産が減少していることになる。これは運用で、-4.08ドル損をしたうえで、2.59ドルの分配金を払ったからだ。つまり、運用利益以上の分配金を払っている。これがタコ足配当だ。
各年度のAとDを比べると価値が上がったか、価値が下がったかがわかる。
2023年と2021年は、価値が上がったが、2022年、2020年、2019年の3年は価値が下がっている。つまり、運用収益(B)よりも分配金(C)のほうが多いわけだ。過去5年間で3年、実に60%の確率でファンドの価値が下がっている。
ETFのタコ足配当による安定した配当の実現は悪なのか?
タコ足配当は資産を切崩し実施するため、悪とする意見もある。ただし、すでにリタイアした人で配当で生活する人にとっては、十分な配当が配布されなければ、資産を切崩し=ファンドを売却して現金を得なくてはいけない。つまり、結果としてはタコ足配当と同じである。
タコ足配当が悪だというのは簡単であるが、ファンドとして分配金を一定に出すとすると、株式市場のパフォーマンスが悪い時には必ずタコ足配当が起きる。これは、多くの投資家に受け入れられているFIREの4%との切崩しルールと同じことだ。投資収益に関わらず4%切崩すとすると、株式市場のパフォーマンスが悪かった年には自分自身が運営しているファンドに関してタコ足配当と同じことが起きる。
むしろ、問題なのはタコ足配当をしているということを知らない投資家が、このファンドが儲かっているから配当金を出していると勘違いすることだろう。株式市場が悪い時ほど高配当ETFが魅力的に見える。投資家は高配当ETFを購入するときには、運用報告書を読んで深く理解する必要があるだろう。
QYLDのパフォーマンス
QYLDは2013年12月11日に設定されすでに10年以上も運営されている。そこで2014年7月末から2024年7月末までの10年間のパフォーマンスを、主要な高配当ETFと比べてみる8。QYLDの姉妹商品ともいえる、保有する株式の50%のみをコールオプションで販売し、NASDAQの値上がりとオプション収益の両立をより目指したQYLGという商品も比較対象に入れてみた。
比較の対象はトータルパフォーマンス
すべてのパフォーマンスはトータルパフォーマンス(分配金再投資ベース)である。
分配金は、前述のタコ足配当をしてしまえば幾らでも配ることができる。継続的に配当金を出すためにはファンドのパフォーマンスがどのくらいなのか?ということを見ないといけない。
タイプ | ティッカーシンボル | 分配金率9 | 3年平均 | 5年平均 | 10年平均 |
---|---|---|---|---|---|
カバードコール高配当ETF | QYLD | 11.62% | 3.90% | 6.46% | 7.43% |
50% カバードコール高配当ETF | QYLG | 5.75% | 8.35% | N/A | N/A |
カバードコール高配当ETF | JEPI | 7.12% | 6.52% | N/A | N/A |
米国3大高配当ETF | VYM | 2.86% | 9.02% | 10.63% | 10.07% |
米国3大高配当ETF | SPYD | 4.18% | 7.62% | 7.69% | N/A |
米国3大高配当ETF | HDV | 3.29% | 9.66% | 8.05% | 8.43% |
S&P500 ETF | SPY | 1.22% | 9.51% | 14.93% | 13.06% |
NASDAQ 100 ETF | QQQ | 0.61% | 9.63% | 20.54% | 18.31% |
上記を見ると3年間のパフォーマンスが最も良かったのは、3年では高配当株のみをETFであるHDV、5年と10年ではNASDAQ 100に連動するQQQのパフォーマンスが良い。
期間 | 1位 | 2位 | 3位 |
---|---|---|---|
3年 | HDV (高配当ETF) 9.66% | QQQ (NASDAQ 100 ETF) 9.63% | SPY(S&P500 ETF) 9.51% |
5年 | QQQ (NASDAQ 100 ETF) 20.54% | SPY(S&P500 ETF) 14.93% | VYM (高配当ETF) 10.63% |
10年 | QQQ (NASDAQ 100 ETF) 18.31% | SPY(S&P500 ETF) 13.06% | VYM (高配当ETF) 10.07% |
1位から3位までをピックアップしてみると圧倒的にインデックスファンドのパフォーマンスが良いことがわかるだろう。つまり、カバードコールETFをわざわざ買わなくても、単純に「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」のようなS&P 500連動ファンドや「ニッセイnasdaq100インデックスファンド」を買っておけば良いのではないかと思う人も多いだろう。
そしてそれはその通りであるが、だだしがある。
カバードコール戦略の威力が発揮されるのは下落時
カバードコール戦略はもともとは下落対策のために開発されたものである。その為、下落時のパフォーマンスが限定的であるという特性がある。以下が、上記のパフォーマンス表に入った5つのETFについて、最大ドローダウン(連続して下落した期間における値下がり率)を比べたものである10。
順位 | タイプ | ティッカーシンボル | 値下がり幅 |
---|---|---|---|
1位 | カバードコール高配当ETF | QYLD | -23.03% |
2位 | S&P500 ETF | SPY | -23.93% |
3位 | 米国3大高配当ETF | VYM | -23.97% |
4位 | 米国3大高配当ETF | HDV | -26.06% |
5位 | NASDAQ 100 ETF | QQQ | -32.58% |
QYLDが最も低い値下がり幅を実現している。原資産は価格の上下運動(ボラティリティ)が激しい5位のNASDAQ 100ながら、S&P 500よりも低いボラティリティを実現している。
カバードコールETFの戦略は、運用資産の値上がりではない。運用資産を守りながらいつ起こるかわからない株式市場の暴落に備えつつ、安定して配当を配布するという退職者やFIRE生活者のニーズに応えるものである。もちろん、自分で安定して取崩し=分配金を自分で出すことができるのであれば、S&P 500連動ファンドでも問題はないと思う。
ただし、下落時の狼狽売りを避けたりと、運用には様々な判断が必要だ。安定して自分で切崩していくというのも難しいだろう。
つまり、退職者やFIRE生活者が資産の一部をQYLDのようなファンドで運用し、生活の基盤となる分配金を得たうえで、NASDAQ 100 連動ETFで値上がりを望むというようなことが良いのかもしれない。そして、それが、50%、50%で良いのであれば、選択肢はQYLDではなく、QYLGとなる。
- Global X NASDAQ 100 Covered Call ETF (QYLD) Stock Price, News, Quote & History - Yahoo Finance ↩︎
- 一歩先いく NASDAQ-100 毎月カバコ戦略(QYLD)【04315243】:投資信託情報 - Yahoo!ファイナンス ↩︎
- 2024年8月23日閲覧:Nasdaq 100 Dividend Yield (slickcharts.com) ↩︎
- 2024年8月23日閲覧:S&P 500 Dividend Yield (slickcharts.com) ↩︎
- Cboe_NASDAQ_BuyWrite_Indices_Methodology.pdf ↩︎
- グローバルX NASDAQ100・カバード・コール 50 ETF | Global X Japanについて (globalxetfs.co.jp) ↩︎
- QYLD_investment_report.pdf (globalxetfs.co.jp) ↩︎
- 2024年8月23日閲覧:Fund Performance (portfoliovisualizer.com) ↩︎
- 2024年8月23日閲覧:https://etfdb.com/ ↩︎
- 2024年8月23日閲覧:Maximum Drawdownの数字 Fund Performance (portfoliovisualizer.com) ↩︎