S&P 500(米国株)の利回りには季節性があるといわれている。この季節性をマスターすることで株式トレードの勝率を高めるというのがアノマリー投資という戦略である。
この戦略は、株式指数を購入してトレードする場合は、直接的に利用することができる。個別株のトレードを行っている際にも、市場全体の動きによって左右されることもあるので参考情報としては有益だ。長期インデックス投資を行っている際にも、アノマリーを知ることで下落に巻き込まれた時により状況理解力が上がり、ホールド力を高めることもできる。
今回はこのS&P 500の年間周期性(アノマリー)を解説したい。
S&P 500の1年間の周期性(アノマリー):月間利回り
以下が1年における月間平均利回りの周期性だ1。

過去10年平均(2015年から2024年)、20年平均(2005年から2024年)、30年平均(1995年から2024年)でほぼ同じストーリーが語れる。
それは、
強い月:11月 > 7月 > 4月
やや強い月:10月
標準的なパフォーマンス:3月 ≒ 5月 ≒ 6月 > 12月
弱い月: 2月 > 8月 > 9月
ということだ。パフォーマンスにぶれ幅があるが、これはショックと言われる大規模下落に関連している。各月のぶれについては各月のリンクから確認してほしい。
S&P 500の年間の周期性(アノマリー)のストーリー
1月:年末に株が上がっていることが多いから上昇疲れで、市場はそこまで強くない。
2月:市場の閑散期、市場は基本的にヨコヨコの推移を示す。
3月:2月の弱さから一転強くなり、年間で言えば標準的なリターンを示す。
4月:第1四半期決算発表が集中することから、景気が良ければ良いほど株価が強い月になる。
5月:4月の上昇疲れから1月と同じくパフォーマンスは強くない。
6月:過去は、1月や5月と同じく方向感に乏しい月であった。最近では、アメリカ景気が良い為、良いニュースが出やすく強い月になっている。
7月:年間で一番パフォーマンスが強い11月に匹敵するパフォーマンスを出す。リーマンショック以降アメリカ経済が好調なこと、第2四半期決算発表が集中するこの月は強くなりがちだ。
8月:夏休みの影響で株式市場の取引量が縮小。通常だとヨコヨコの市場であるが、何かのショックが来ると取引量が少ないことから吸収できずに暴落する。それが引き金になり過去30年平均ではマイナスリターンを示している。
9月:年間通じて株価パフォーマンスが最も悪い月。唯一、過去10年平均、20年平均、過去30年平均共にマイナス月別リターンを示している。機関投資家のポジション解消が起こりやすいなどの構造的な要因もあるが、9月が弱いということが知れ渡っている心理的な要因もある。
10月:年末ラリーに向けて上昇基調がスタートする。ただし、10月は大統領選挙年はかなり影響されるので注意が必要だ。
11月:非常に強い。年間通じて最も強い月である。この月はアメリカで選挙がある月でもあるので、政治的に何かが決まる=不透明感が払しょくされるという月でもある。
12月:11月の上昇疲れから弱い月。後半はサンタクロスラリーなど強い相場が出現することもあるが、11月ほど強くない。
過去10年平均 | 過去20年平均 | 過去30年平均 | |
---|---|---|---|
1月 | 0.8% | -0.0% | 0.4% |
2月 | 0.1% | 0.1% | -0.1% |
3月 | 0.6% | 1.4% | 1.4% |
4月 | 1.3% | 1.8% | 1.9% |
5月 | 0.9% | 0.4% | 0.6% |
6月 | 1.1% | -0.1% | 0.3% |
7月 | 3.4% | 2.5% | 1.3% |
8月 | 0.1% | 0.0% | -0.6% |
9月 | -2.0% | -0.6% | -0.7% |
10月 | 1.3% | 0.8% | 1.5% |
11月 | 4.1% | 2.3% | 2.6% |
12月 | -0.1% | 0.6% | 0.9% |
S&P 500の月次利回りは9月が悪く11月が良いという話
よく聞く「9月が悪く11月が良い」という話はかなり本当の話だ。過去10年平均、過去20年平均、過去20年平均と期間を変化させても、この説を支持する結果が出てくる。
月間ベスト利回り月ランキング
順位 | 過去10年平均 | 過去20年平均 | 過去30年平均 |
---|---|---|---|
1位 | 11月 | 11月 | 11月 |
2位 | 7月 | 7月 | 4月 |
3位 | 10月 | 4月 | 10月 |
月間ワースト利回り月ランキング
過去10年平均 | 過去20年平均 | 過去30年平均 | |
---|---|---|---|
1位 | 9月 | 9月 | 8月 |
2位 | 2月 | 6月 | 9月 |
3位 | 8月 | 1月 | 2月 |
S&P 500の1年間の周期性(アノマリー):勝率
勝率とは、月間利回りがプラスだった回数の割合を%で示す指標である。利回りだけでなく、市場の上昇しやすさの安定性を測る目安になる。
月間ベスト勝率 ランキング
S&P500の利回りが良い、11月、7月、4月といった月において勝率の高さを示している。特に7月は過去10年で勝率100%、一回も値下がりしたことがないと無敵の成績だ。これには強いアメリカ経済を背景に第2四半期の好調な決算が7月に発表されることが関連している。また、それに呼応して、夏休み前であることから投資活動が活発になることも影響しているだろう。
特筆すべきは5月だ。利回りはそんなに高くないが、安定して高い勝率を出す月と言える。
順位 | 過去10年 | 過去20年 | 過去30年 |
---|---|---|---|
1位 | 7月(100%) | 4月(80%) | 11月(80%) |
2位 | 5月(90%) | 7月(80%) | 4月(77%) |
3位 | 11月(90%) | 5月(75%) | 5月(70%) |
月間ワースト勝率 ランキング
ワーストランキングも利回りの強さと大して変わらない。利回りが悪い9月の勝率が歴史的に見て平均して悪い。
順位 | 過去10年 | 過去20年 | 過去30年 |
---|---|---|---|
1位 | 9月(40%) | 1月(50%) | 8月(53%) |
2位 | 1月(50%) | 8月(55%) | 9月(53%) |
3位 | 2月(50%) | 9月(55%) | 1月(57%) |
月間勝率ランキング
すべての月を並べてみると以下のようになる。
月 | 過去10年 | 過去20年 | 過去30年 |
---|---|---|---|
1月 | 50% | 50% | 57% |
2月 | 50% | 60% | 57% |
3月 | 60% | 65% | 67% |
4月 | 80% | 80% | 77% |
5月 | 90% | 75% | 70% |
6月 | 80% | 60% | 67% |
7月 | 100% | 80% | 63% |
8月 | 50% | 55% | 53% |
9月 | 40% | 55% | 53% |
10月 | 50% | 55% | 60% |
11月 | 90% | 75% | 80% |
12月 | 60% | 65% | 70% |
S&P 500の1年間の周期性(アノマリー)をトレードに使う
トレードに使うためにパフォーマンスが良い期間と悪い期間をグルーピングすると以下のようになる。

アノマリーが示すS&P 500の買い時と売り時
3月頭から4月末、7月、10月頭から12月末というのが、ポジティブリターンを出すシーズンと言えよう。これをいつ買って売るかという視点になると以下のチャートが役にたつ。

2月末に買って4月末で売る。6月末で買い7月末で売る。9月末で買って12月末で売ることをベースに考えるのが良いのではないか?というのがアノマリーが示していることである。
大統領選サイクルを考慮すると
政治的と経済は密着している。11月のパフォーマンスが良いのも政治的な不透明さがなくなるというところが大きい。単純の30年、20年、10年平均でだけでなく、過去30年の大統領就任年を7年(サイクル)分追加してみた。
その結果、全体的なトレンドは大きく変わらない。一般的にパフォーマンスが良い大統領就任年ということで、パフォーマンスが大きく上振れしている線が表れた。大統領就任年の特徴としては、その不透明さからも年初のパフォーマンスはあまりよくないが、平均的には3月末に購入すれば、その後7月末までの強いパフォーマンスが体験できる。9月末から12月末までの力強いパフォーマンスも健在だ。

周期性(アノマリー)はあくまでも参考までに
ここで紹介してきたデータは、あくまでも過去平均であり、周期性も過去平均を見ればという話だ。平均の元データになった年もそれぞれ事情があり、すべて周期性通りに動いているわけではない。
周期性はあくまでも投資を考える上での1つのインプットであると想定していただければよいだろう。そうなりやすいとそうなるは違うものである。
- S&P 500 Index (SPX) - Investing.com のデータを元に集計している。データ全てプライスリターンを採用している。 ↩︎