投資判断はデータと理屈で行っているつもりでも、実際には「直近のニュース」や「強く印象に残った出来事」に引っ張られることが多い。これは、利用可能性ヒューリスティックの影響である。
利用可能性ヒューリスティック(availability heuristic)とは、意思決定する際に「頭にすぐに思い浮かぶ具体例」に依存する認知の歪みである。直近に見た悪い株価下落のニュースなど、単に思い出しやすいだけの情報に投資判断が引きずられるのが、この心理の典型的な作用である。
利用可能性ヒューリスティックとは何か
人間の脳は、思い出しやすい情報を「重要だ」と判断しやすい。これは、限られた時間や脳資源の中で意思決定を行うため、思考の近道を使う必要があるからだ。
しかし、投資判断においては、時としてこの仕組みがそのまま認知の歪みになる。例えば、バズりやすい情報は、思い出しやすいし、目立つ。SNSで反復され、感情を刺激し、記憶に焼き付きやすい。その結果、「よく見る」「よく聞く」という理由だけで、重要度を過大評価してしまう。
ヒューリスティックとは、人が複雑な問題を素早く判断するために用いる思考の近道のことを言う。すべての情報を使って統合的に判断するのではなく、経験則や直感に基づいて「だいたいこうだろう」と判断する、思考の近道だ。利用可能性ヒューリスティックはこの一種で、思い出しやすい、利用しやすいだけで重要と考える思考の近道である。
日常での利用可能性ヒューリスティック
利用可能性ヒューリスティックは、いろいろなところに存在している。
例えば専門家である医者も、インフルエンザなど、一般的または注目度の高い疾患を、診断対象として選びやすいと言われている。思い出しやすいというのがその理由だ。
私も衝撃的である飛行機事故は、記憶に強烈に残るため、海外旅行に行く前に家を整理しがちだ。飛行機事故などが起こる確率は非常に低く、他のリスクにより注目すべきであるにだ。バカげているがこれも、利用可能性ヒューリスティックの1つの具体的な例である。
利用可能性ヒューリスティックが投資判断に与える影響
投資のような不確実な分野では、人は判断の拠り所を求めやすく、その結果、利用可能性ヒューリスティックの影響がより強く現れがちである。
話題になった株は思い出しやすい
話題になった株が実態以上に魅力的に見えてしまう背景には、利用可能性ヒューリスティックがある。頭にすぐ思い浮かぶ情報を重視する傾向が、ニュースやSNSで拡散された銘柄ほど「良い株」「伸びる株」という印象を形成する。
業績の持続性や割高かどうかといった冷静な検討よりも、「話題になっている」という事実そのものが評価軸になってしまう。これは、単に思い出しやすい例に依存している状態である。そして、話題性はリターンを保証するものではない。
重要なのは、その企業が将来どのような利益を生み続けられるかという期待値である。
暴落煽りは思い出しやすい
更に良いニュースよりも悪いニュースのほうが頭に残りやすい。これは、プロスペクト理論でも証明されているように、人間は損する痛みのほうが、得する喜びよりも、心理的インパクトが約2倍大きいと言われているからだ。
「暴落」「危機」「崩壊」という単語は、事実の説明というより心理への刺激として働く。
例えば、リーマンショックを例にとろう。2008年9月15日に起こったリーマンショックのことは何度も語られ、多くの人は株価が半値になったという事実は広く知られている(利用可能である)。多くの人は「株価が半値になった100年に一度の暴落」ということで、強烈な思い出しやすい印象を持っている。
その為、下落局面になるとすぐに株価が半値になったリーマンショック級という言葉が飛び出す。ただし、リーマンショック級は、リーマンショックの時、1回しか起こってない。

まとめ:思い出しやすさに振り回されない投資判断をするために
利用可能性ヒューリスティックを良く言えば、思い出しやすい=脳が効率的に働く仕組みの弊害ともいえる。
利用可能性ヒューリスティックが避けられないものとして、投資判断は、思い出しやすい例だけで結論を出すのではなく、長期間のパフォーマンスデータなど、理解に時間がかかる情報も併せて検討することで、投資の安定性は高まる。
このように、正しい投資判断をするためには、人間が本来持つ思考の癖や心理的な罠を理解することが重要である。
以下の記事では、投資判断を狂わせやすい代表的な心理や思考の罠について、投資心理学の面から体系的に解説している。例えば、投資におけて認知したほうが良いもう一つのヒューリスティックである、代表性ヒューリスティックなども含めてである。気になるテーマから読み進め、自分の投資行動と照らし合わせてみてほしい。
