代表性ヒューリスティックとは、物事を判断する際に、統計や確率に基づいて考えるのではなく、頭の中にある典型的なイメージと照らし合わせて確率判断を行ってしまう思考の傾向を指す。
例えば、高級時計を着けている人物は、成功した経営者やお金持ちだと考えられやすい。外見が一般的な「成功者像」を代表しているからである。
代表性ヒューリスティックは、限られた情報の中で素早く判断するための有用な仕組みでもある。しかし一方で、判断の誤りを生みやすい。特に、少数のサンプルしか見ていない場合、その一部が全体をどの程度代表しているかを過大評価してしまう傾向がある。株式投資の世界では、この思考の近道が、合理的に見えて実は危うい判断を生み出している。
類似性(Similarity)|「成長株っぽい雰囲気」で買ってしまう投資判断
代表性ヒューリスティックが最も分かりやすく現れるのが「類似性」に基づく判断である。人は、新しい対象を評価するとき、「どれだけ典型的なイメージに似ているか」を強く重視する。
成長企業の典型像が生む錯覚
AI企業、優秀な経営陣、メディア露出の多さ、将来性を感じさせるストーリー。こうした要素がそろうと、多くの投資家は「この企業は伸びそうだ」と直感的に判断する。
しかし、ここで行われているのは、企業の将来キャッシュフローや競争優位性の分析ではなく、「成長企業の典型像との類似性」による判断である。ドットコムバブルの際には、「ドットコム」という名称が付くだけで、ビジネスの実際の成長性が十分に検討されないまま、株価が上昇した例が数多く見られた。これも代表性ヒューリスティックの一例だろう。
「成長株っぽい」という印象は、あくまで外見上の類似性にすぎない。それを確率判断に置き換えてしまうと、代表性ヒューリスティックによる過信が生じる。
ベースレートの無視|有名投資家が買った銘柄に安心してしまう心理
代表性ヒューリスティックは、ベースレート、すなわち「全体における基本的な割合」を無視させる方向に働く。
投資の場面では、「有名投資家が買った銘柄」がその典型である。過去に的中実績のある人物が紹介した銘柄を見ると、多くの人は「この人が選んだのだから大丈夫だろう」と感じる。しかし、本来考慮すべきは、その人物がこれまでに紹介・購入してきた銘柄全体の数と、その中で成功した割合である。
長期バリュー株投資家のバフェット氏の短期保有銘柄
長期バリュー株投資家として名高いウォーレン・バフェット氏には、打診買いと言われるような短期保有銘柄が数多く存在することが知られている。ただし、コカ・コーラ、バンク・オブ・アメリカ、アメックス、アップルなどの株を長期保有し大成功した結果、短期保有した銘柄の多くは忘れられる。
成功例だけが強調されている場合、実際のベースレートは大きく歪んで認識される。
ウォーレン・バフェット氏が買ったという事実は、判断材料の一つではある。ただし、ウォーレン・バフェット氏が持ち続けるという保証はなく、ベースレートを無視した安心感は、代表性ヒューリスティックによる典型的な錯覚である。
これは生存者バイアスという形でも説明される。
サンプルサイズへの鈍感さ|最近出たパフォーマンスの良い投資信託を買ってしまう心理
代表性ヒューリスティックは、サンプルサイズに対する鈍感さとも結びつく。人は、結果が「それっぽい」形で現れると、その背後にあるデータ量を軽視しがちである。
投資では、短期間で高いリターンを出した投資信託がこれに該当する。数か月で大きく上昇した実績を見ると、「このファンドは長期的にリターンを出し続ける良いファンド」と判断しやすい。しかし、短期の成績は偶然の影響を強く受ける。サンプルサイズが小さいほど、結果は大きくブレる。にもかかわらず、人は「強い成績」という代表的な見た目に引きずられ、それを長期的な実力と誤認してしまう。
これは、「一部の結果が全体を代表している」と錯覚する典型例であり、代表性ヒューリスティックが引き起こす判断エラーである。
まとめ|代表性ヒューリスティックを投資でどう避けるか
代表性ヒューリスティックは、人間にとって自然で避けがたい思考の仕組みである。成長株っぽさ、有名人の選択、短期の好成績。これらはすべて、判断を素早く行うための手がかりとして機能する。
しかし、投資において重要なのは「それがどれだけ典型的に見えるか」ではなく、「その状況がどれだけ頻繁に起きるか」である。類似性、ベースレート、サンプルサイズ。この3点を意識するだけで、代表性ヒューリスティックによる誤判断は大きく減らせる。
自分の判断が「それっぽさ」に依存していないかを確認することが、正しい投資判断への第一歩である。
投資を実行する上で、人間が本来持つ思考の癖や心理的な罠を理解することが重要である。以下の記事では、投資判断を狂わせやすい代表的な心理や思考の罠について、投資心理学の面から体系的に解説している。ヒューリスティック、つまり、思考のショートカットの他の代表的な例である、利用可能性ヒューリスティックについて取り上げた記事も参考にしてほしい。

