投資の失敗は、知識不足だけで起きるわけではない。予想できないランダム性に富んだ株式市場では、原因の多くは「投資家の感情」にある。どれほど合理的に考えているつもりでも、恐怖や欲望、後悔、自尊心といった感情が判断に入り込むことで、投資行動は容易に歪んでしまう。
投資心理学では、こうした判断の歪みを心理バイアスとして説明するが、その数は多く、初心者にとっては理解しづらいことも多い。そこで本稿では、投資心理を個別の用語からではなく、感情の種類という視点から整理する。
突き詰めると、投資判断を歪める感情は
損をしたくない不安や恐怖
乗り遅れたくないという期待や欲望
自分の判断は正しかったという自尊心を守る
の3つに集約できる。
さらに良くないことは、この3つは情報の受け取り方によって拡大してしまう。
どの感情が強く働いているかによって、現れる心理バイアスも異なる。
投資の不安と恐怖が判断を狂わせる理由
相場の下落や評価額の減少に直面したとき、多くの人は冷静さを失う。
プロスペクツ理論で証明されたように、人は利益よりも損失に強い痛みを感じるため、合理的には手放すべき局面でも、損を確定させる行動を避けてしまう。このような、損を確定するのが怖くて動けなくなる心理を損失回避バイアスと呼ぶ。
この傾向をさらに強めるのが、悪いニュースばかりが気になる状態であるネガティブバイアスである。株式市場の下落の記憶は強く残り、将来のリスクを実態以上に大きく見積もらせる。
また、後悔を恐れて判断を先延ばしにする心理が、後悔回避である。後悔を避けたいがために、何も決断できなくなり、、判断を硬直させる。こうした心理の結果として現れるのが、何も変えないほうが安心に感じてしまう心理である現状維持バイアスだ。
欲望や期待が強くなったときの投資感情
相場が上昇局面にあるとき、今度は恐怖ではなく「欲望」が判断を支配する。利益を得たいという感情が、合理性を超えて行動を促す。
典型例がFOMOである。周囲が儲けているように見えると、「今買わなければ損をする」という感情が強まり、冷静な分析を省略してしまう。
これと密接に関係するのが群集心理やバンドワゴン効果である。多くの人が選んでいるものは正しいはずだ、という思い込みが、判断を簡略化する。
さらに、自分の判断能力を過大評価する過信が加わると、「今回は自分だけはうまくいく」という根拠のない自信が生まれる。この状態ではリスクが見えなくなり、期待だけが膨らんでいく。
自尊心を守るための投資判断
投資で損失を出したとき、人は事実よりも「自分を守ること」を優先する。このとき働くのが、自尊心に基づく心理バイアスである。
また、自分の考えに都合の良い情報だけを集める確証バイアスも強く作用する。反対意見を見なくなることで、「自分は間違っていない」という感覚が強化される。失敗の原因を外部に求め、成功を自分の実力だと考える自己奉仕バイアスも、自尊心を守るための典型的な心理である。
さらに、「努力すれば報われるはずだ」という前提に縛られる公正世界仮説は、市場の不確実性を直視することを難しくする。結果として、誤った判断を修正できなくなる。
これらが強調されてしまう理由
人間は感情的な生き物なので、不確実性が高くなればなるほど判断においても恐怖・欲望・自尊心が強く作用しやすい。意思決定は常に客観的な比較で行われるわけではなく、情報に触れる印象論で大きく判断が歪む。
情報の捉え方が変わる
過去の高値や購入価格に引きずられるアンカリング効果や、同じ事実でも表現次第で印象が変わるフレーミング効果は、感情を刺激する枠組みの中で、情報の前提を変える効果がある。
保有しているものを高く評価してしまう保有効果やサンクコスト効果は、自尊心と結びつきやすく情報の前提を変える。「自分の判断は正しかったはずだ」という感覚を守る方向に働き、判断修正を難しくする。こうして感情は強調され、投資判断の中心に居座ってしまうのである。
情報を過大評価する
さらに、人は目につきやすい情報を過大評価する。
直近の暴落ニュースや成功談が強く記憶に残る利用可能性ヒューリスティック、典型的な成功例を基準に判断してしまう代表性ヒューリスティック、そして成功者の事例だけに目が向き失敗例が見えなくなる生存者バイアスは、恐怖や欲望を現実以上に膨らませる要因となる。その結果、確率や前提条件よりも感情的な印象が優先されやすくなる。
まとめ: 投資感情とどう向き合い、コントロールするか
投資感情を完全に消すことはできない。重要なのは、不安や恐怖・期待や欲望・自尊心を守る|投資感情が生じることを前提に、それが判断のどの場面で影響しているのかを自覚することである。
感情に流されている状態を否定するのではなく、常に「今は不安が強い」「期待が先行している」と自分自身の行動の解像度を高くすれば、行動を感情的にすることを抑えられる。
その為には、
・ 早急な判断はしない
・ 投資ルールを作る
・ 記録を残す
といった仕組みが重要だ。そしてなりよりも自分が信じられる投資ルールを作ることが必要だ。
投資感情のコントロールとは、感情に勝つことではない。感情を理解し、判断から切り離す習慣を持つことである。投資判断を狂わせやすい代表的な心理については、投資心理学の観点から整理した以下の記事で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてほしい。


