株式市場では、あるテーマが「未来の正解」と見なされた瞬間から、理性的な評価が急速に失われることがある。EV(電気自動車)バブルも、その典型例だ。そして「未来の正解」の中にすでに成功例があると、そのハロー効果により、市場が暴走しやすい。
この2020年後半から2021年前半に起こったEVバブルは、単なる技術革新や政府の脱炭素政策だけで説明することはできない。背景には、テスラの大成功というのハロー効果という認知バイアスが強く作用していたと考えられる。
EVバブルはなぜ起こったのか
EVバブルが起こったのは以下の4つの要因がある。
第一に、脱炭素・ESG・政策支援という時代的要請がある。各国政府がEVを後押しし「EVは成長産業である」という前提が広く共有された。
第二に、コロナ禍による各国の中央銀行が作り出した低金利と過剰流動性だ。これにより、将来の成長が重視され、足元の赤字や未完成の事業でも高い評価が許容された。
第三に、SPAC(特別買収目的会社)ブームである。SPACは、事業実体のない会社が先に上場し、後から未公開企業と合併する仕組みだ。通常のIPOと違い、審査が相対的に緩い、将来性というストーリー重視の評価になりやすい。この仕組みは、量産前・売上ゼロのEV企業にとって極めて相性が良かった。
そして、第四に、いや、決定的な要因が、テスラの成功だ。投資の世界では、「テスラが成功した → EV企業は成功する」という短絡的な一般化として現れた。
その結果、大量のXX版のテスラという企業が大量に上場し、高い時価総額で市場に評価された。
SPACで上場したXX版テスラ企業の末路
以下が当時SPACというスキームを使って上場した6社のEV企業である。衝撃的かもしれないが、6社中5社が破産して、現存していない。
| 企業名 | X版テスラ | 株価ピーク時期 | ピーク時の時価総額(概算) | 量産体制まで行ったか | 破産時期 |
|---|---|---|---|---|---|
| Lucid Group, Inc. | 高級EV版テスラ | 2021年2月 | 約900億ドル (約13.5兆円) | 〇 | 現存 |
| Nikola | トラック版テスラ | 2020年6月 | 約290億ドル (約4.35兆円) | 約600台 | 2025年2月19日 |
| Arrival | ヨーロッパの商用車特化版テスラ | 2020年12月 | 約120億ドル (約1.80兆円) | ほぼ生産なし | 2024年3月1日 |
| Fisker Inc. | デザイン重視のテスラ | 2021年2月 | 約80億ドル (約1.20兆円) | 約1,000台 | 2024年6月19日 |
| Lordstown Motors | ピックアップトラック版テスラ | 2020年9月 | 約50億ドル (約0.75兆円) | 約500台 | 2023年6月27日 |
| Canoo | サブスク型テスラ | 2021年1月 | 約45億ドル (約0.68兆円) | ほぼ生産なし | 2025年1月17日 |
テスラのハロー効果が剥がれた
まず明らかなのは、株価ピークの集中時期だ。ほぼすべての企業が 2020年後半〜2021年前半 に評価の頂点を迎えている。これはテスラの評価が驚異的な上がった時期と重なっている。
一方で、破産や事業崩壊は 2023年以降 に集中している。これは、低金利と期待先行で許容されていたハロー効果が、金利上昇だけでなく、生産能力の評価によって一気に剥落した結果である。唯一「現存」しているLucidも、現在の時価総額はピーク評価時の40%程度である。
EVバブルは「株価が高かったこと」ではなく、テスラのはハロー効果によって、量産・販売・収益化が伴わない段階で、テスラのように完成した企業として値付けされたことが本質だった。
EVバブルから見るバブル企業を見極めるポイント
チェック①:成功企業の物語でラベル付けされていないか?
安易に「XX版テスラ」といった表現が多用されていないか?ハロー効果が最大化される、成功企業のXX版というキャッチフレーズがつけられたら、それは危険なサインと言える。生き残るためにはオリジナリティーが重要である。
チェック②:利益化フェーズよりも夢が語られていないか?
将来の市場規模の話が中心になっていないか、また、プロトタイプの話ばかりになっていないか、などにも気を付ける必要がある。
他の成功企業が切り開いた輝かしい未来に安易に乗っかるだけで、人材、サプライチェーン、資金源など、泥臭い部分でのビジネスを成功させる要素が語られていない場合は、ハロー効果を疑うべきである。
チェック③:SPAC上場などの特別なフレームワークを使ってないか?
通常IPOではなく、なぜ、SPAC上場なのか?という点も注目に値する。1990年代のドットコムバブルを想起させるSPAC上場は、明らかにテスラのハロー効果に乗ったブームに乗った上場である。
スピードが重要など言葉に惑わされて、本質を忘れてはいけない。上場企業は、上場時に審査されるべきなのである。