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2024年のS&P500は高いのか?10年ごとの歴史を見る

2025年2月11日

現在、S&P 500は6000ポイントを超えている。これは歴史的に見ても上がりすぎ、AIバブルが起きているなど様々な憶測が飛んでいる。S&P 500は現在過大評価されているのだろうか?

S&P 500の長期チャートから見える劇的な株価成長

よく紹介されているS&P 500の株価成長の歴史のチャートが以下である1。ここ10年で急激な成長をしているように見受けられる。

今話題の著名投資家バフェット氏がアップル株を購入した2016年から急激に株価が上昇しているように見える。そして、バフェット氏は最近、アップル株を手放しており、これがバブル崩壊の予兆だという散見される。

S&P 500の株価成長のリアル

前述のチャートは正しいデータを使っているので間違ってはいない。しかし、株価成長は”%”で起こることを見逃している。

例えば、10%上昇したとしよう。20ポイントのS&P 500が10%上がれば、2ポイントの上昇である。6000ポイントで10%上がれば、600ポイントと2ポイントに比べて、300倍の上昇になる。グラフ上も300倍の大きさとして表現される。ただし、100ドル分のS&P500を保有していたら、得れる利益は10%、つまり10ドルだ。

これが、株価成長は”%”で起こることの理由だ。

この影響を排除したグラフは縦軸に対数を使えれば描ける。これにより、正しいS&P 500の株価上昇のトレンドがわかる。以下の対数を使ったグラフを見ると、S&P 500は多少の上下運動はあるが安定して右肩上がりなのがわかる。

米国市場最大の株価バブルであったドットコムバブル時は平均値からの大きな乖離がみられる。現在も平均からは上振れているのは事実であるが、対数グラフ上はドットコムバブルほどの過熱はない。

バフェット氏がアップル社の株を買った2016年の市場は平均的な市場であり暴落期でもない。もちろん、現在よりも割安であったが、当時は、株価成長を狙った絶妙なタイミングを見計らったというよりも、株主還元などでうまみがあったのではないかとされていた2

バフェット氏は株価成長を予想や暴落を当てるというよりも、割安大型株を購入するスタイルの為、アップル社が割安大型株ではなくなったということなのだろう。それをAIバブルが崩壊するということに結びつけるのはいささか短絡的のように思える。

10年ごとに見ればS&P 500の値動きがつかめる

長期的なチャートで見るとS&P 500の値動きを読み解くのは難しい。そこで、10年ごとにS&P 500のトータルリターン(配当込みリターン)が何倍になったか?というグラフを作成した。

対象は第二次世界大戦後の1950年代から2020年代まで、8つの区間で比較してみた。

2020年代は異常な成長をしているか?

データを見ると、現在は、2020年代であり2024年までの4年分しか年末リターンの終値が出てない。そのトレンドから見る限り、異常なほど大きな成長をしているか?といわれればそうではない。ほぼ、2010年と同じような資産成長率と言える。バブル崩壊や戦争などの影響で低成長だった2000年代や1970年代からすれば大きな成長だ。

そこで、株価の動きが異常かを考えるためには、各年代の経済イベントをレビューしていく。その前にこのデータを読み解くポイントを解説する。

プライスリターンではなくてトータルリターン

前述まではプライスリターン(S&P 500のポイント数がどのくらい増えたか)を使っていたが、ここからは配当再投資モデルのトータルリターンとしている。これは、株式市場のリターンは株価上昇と配当金で表現されるからだ。

昨今、S&P 500 構成企業は、配当よりも株価成長を重視しているハイテク企業が時価総額加重で大きくなっており、S&P 500の平均配当率が大きく下がっているのだ。よって、プライスリターンだけだと最近のデータが過小評価される。

インフレ考慮モデル

インフレも考慮する必要がある。インフレが起きれば、それにつられて株価成長も見込みる。そこで、各年のインフレーションをトータルリターンから引いた数字で何倍になるのかを表現している。

それぞれの10年に何が起こったのか?

経済の状況がより分かりやすいように米国10年国債のリターンと共に紹介していく。

2020年代のS&P 500の成長

2020年代はコロナ禍と共に始まった。経済活動が制約される中でFRB(連邦準備制度理事会、米国における中央銀行)が大幅な金融緩和を行い、市場にお金をどんどん供給した。その結果、お金がじゃぶじゃぶになる、つまり、金利は下がり、株価は上がるという状況が作り出された。

急激な金融緩和の結果、アメリカでは激しいインフレが発生した。その結果、2022年はインフレ対策が必要となり金融引締めの年になり、金利が上昇した。その結果、債券価格の下落と株価の下落が同時に起こり、2022年は何を買っても儲からないという年になった。

現在は、金利は段階的に下げられているが高止まりしている。その中でAIの期待からAI関連株が市場を牽引している。ともかく、ここまでの4年は、株価にとっては、非常に良い年代であったとも言える。

2010年代のS&P 500の成長

2010年代は、2008年に発生したリーマンショック(不動産バブル崩壊)の影響で株価は割安水準で始まった。また前半は、リーマンショックの影響で2015年まではゼロ金利政策が取られていた。その後、金利は徐々に上がったが、安定した株価が成長が続いた10年であった。

この時代の前半を担当したオバマ政権は、印象に残る経済政策も打ち出さなかった反面、株価に対して大きな悪影響も与えなかった。2017年に就任したトランプ政権は、2018年に主に中国に対しての貿易戦争を起こし大きく株価が下落した。ただし、大勢には影響せずに、どちらかというと大きな経済イベントがなかった印象を受ける10年である。

2000年代のS&P 500の成長

2000年は株価の暗黒の時代である。株価下落の主要因である
1)インフレ(=金利上昇)
2)戦争
3)バブル
の内、インフレ以外の2つの要因が立続けに起こった年代である。

2000年のドットコムバブル崩壊という株価にまつわるバブルが崩壊した。

さらに2001年の世界同時多発テロで、テロとの戦いという新しいレベルの戦争が起こった。2003年には、イラクが大量破壊兵器が隠し持っているということで、イラク戦争が発生。戦争自体は開戦後すぐにフセイン政権は倒れたものの、アメリカ軍が2011年末まで駐留し続けることになる。前半は、バブル崩壊と2つの戦争という株価には非常に悪い展開であった。

ブッシュ政権は、そのような状況の悪い経済を立直すために低金利を維持した。その結果、不動産バブルが発生し、2008年のリーマンショックにつながったといわれている。

2000年代の特筆すべき点は、株のパフォーマンの悪さだけでなく、株よりも債券のパフォーマンスが良かった時代でもある。現在人気の投資信託としては最も人気なのはS&P 5003だが、当時は、アクティブ運用の国債(ソブリン債)という真逆の投資信託:グロソブが売れていた

株だけのポートフォリオが危険だという人はこの時代を生きた人に多いのではないか。とにかく、米国株は全く人気がなかったのが2000年代である。S&P 500のFIREシュミレーションをしているが、とにかく2000年をスタートしたモデルはパフォーマンスが悪いのである。

2000年代が唯一良かったところはインフレが起きなかったという点しかない。この景気の悪い中、インフレが起きていたら1970年代のスタグフレーションの再来となりもっと株のパフォーマンスは悪かったはずだ。

1990年代のS&P 500の成長

2000年代と比べて幸せな株価であった時代であった1990年代。

1990年代は、1990年8月の湾岸戦争から始まった。その点では、株価フレンドリーではなかったが、その後、1993年にクリントン政権が発足すると一気に風向きが変わる。副大統領のアル・ゴア氏が中心となりハイテク産業にフレンドリーな政権になった。

当時は、インターネットの普及の時代であり、アメリカのハイテク産業が、世界経済の中心になっていく時代の礎を築いた時期である。ただし、1990年代後半は株価は過熱気味になり、2000年3月にドットコム株はビークの値段をつけ、その後、ドットコムバブル崩壊となる要因を作ったのも事実だ。

ドットコムバブルの切欠と言えるのが、当時インターネットブラウザーのデファクトスタンダードであった、ネットスケープ社の株式公開で、1995年8月のことだ。ネットスケープ社は、設立僅か16か月で株式公開に漕ぎつけただけでなく、公開初日に株価は大幅上昇し、時価総額は2.9ビリオンドル(150円換算レートで4350億円)となった。これを契機に後半はドットコムバブルに突入していく。1990年後半は株価がとにかく爆発的に成長を遂げる。

現在のメガテックのハイバリエーションは利益に基づいているのでドットコムバブルとは違うという人も多いが、当時は、ぽっと作った会社がどんどん将来の期待感からIPOで高値を付けるというのが数多く起こっていた。そして、それらの企業に施設を販売する、シスコ(ネットワーク機器)やサンマイクロシステムズ(サーバー)などが中心になり全体の株価も押し上げられていった。つまり、現在の状況よりも実体経済がないバブルぽさがあった。

S&P 500を使ったFIREシュミレーションをしているが、1995年以前にFIREが可能などの資産を蓄えていれば、この株高を享受して大きく資産を伸ばし、2000年代の暗黒の時代を乗り越えられている。ブームが来ても慌てずにじっくり持ちづづけることが重要だ。1990年代後半は、この比較の中でも最も経済状況が良かった、つまり、インフレがない高成長が続いた素晴らしい時代であった。

1980年代のS&P 500の成長

1980年代は、レーガノミクスの時代だ。

1980年代初頭アメリカ経済の状況は悪かった。これは、1970年代の戦争やオイルショックの影響で、スタグフレーション:景気が停滞しているにもかかわらずインフレ(物価が上昇)が起こる状況で経済は停滞していた。その結果、1982年11月に失業率が10.7%とアメリカで戦後最悪の事態となった。

それを打開するためにレーガノミクスは、
1.軍事支出の増大による景気刺激
2. 減税による投資の促進
3. 規制緩和による投資の促進
4. マネーサプライを抑制し、ドルの価値を上げる
という4つの柱を立てた。

減税や規制緩和が一定の効果を生み、また、原油価格が下がったことによるインフレの鎮静化などもあり、アメリカ経済は1980年代中盤から回復傾向を辿ることになる。

1980年代初頭はインフレ対策の為に歴史的な高金利だった。1979年、1980年のインフレ率は実に13%。1981年は9%と手が付けられないほどのインフレであった。その為、1981年には政策金利が20%にもなった。その後インフレは沈静化し、政策金利も徐々に下げられていった。それによって株価も持ち直した。債券も株価もリターンが出たのが80年代である。

後半の1987年にはブラックマンデーと言われる世界同時株式暴落も起こったが、その影響も限定的であった。

現在のトランプ大統領の政策は、このレーガノミクスに近いものがある。トランプ大統領のスローガンのMake America Great Againというのは、もともとは、レーガン大統領が使ったものであり、1970年代の停滞したアメリカから復活しようという意味が込められている。例えば、関税で言えば、日米貿易摩擦の時代でもあり、日本のテレビやパソコンに高い関税が課されたりした4

現在、日本はアメリカのテック企業によるデジタル赤字に悩んでいるが当時は、真逆の立場でアメリカが日本のハイテク赤字に悩んでいたのだ。40年で完全に立場が逆転したことになる。

1970年代のS&P 500の成長

2000年代の次に株価の暗黒時代と言われるのが1970年代。この時代はアメリカ経済は、世界経済の中で相対的な競争力を落とし、これが前述の1980年代のレーガノミクスにつながる。

1970年代は、株価に悪影響な
1)インフレ(=金利上昇)
2)戦争
3)バブル
が同時多発的に起こった年代でもある。

特に1970年代のインフレは大問題であった。経済の血液ともいえる石油価格が中東戦争の影響で大幅に上がったのだ。オイルショックである。戦争はその中東戦争だけなく、1964年のトンキン湾事件から1973年のパリ平和協定まで、アメリカは1970年代の前半はベトナム戦争を大規模に戦っていた。

バブルと言えば、1960年代後半から1970年代にかけてブームになった、ニフティ・フィフティ銘柄が上げられる。素晴らしい50と称されたこの銘柄は、当時のアメリカを代表する大企業、つまり大型株だ。その多くは現在も上場している企業で、IBM、コカ・コーラ、GE、マクドナルド、ジョンソンアンドジョンソン、イーライリリーなどが上げられる。

これらの大型株は、高い成長力があるということで、高いPERでも正当化されていた。現在のマグニフィセント7、メガ・グロース株の元祖ともいえる。ニフティ・フィフティ銘柄は、1970年代中盤以降、インフレの影響が深刻化し、経済が停滞すると業績は市場の期待に応えられなくなる。つまり、株価は下がり、普通のPERの株になっていった。

1970年代、特に中盤以降は、石油価格高騰を中心に起こった高インフレ、および不景気、つまり、スタグフレーション時代であった。アメリカの経済が弱体化した10年ともいえる。もちろん、米国10年債、S&P 500のリターン共に悪かった。

1960年代のS&P 500の成長

1960年代は前半は、1950年代の栄光の時代の続き株価は堅調であった。

しかし、1960年代中盤から、ベトナム戦争の影響やクリーピング・インフレーションという、経済活動に関わらずインフレが進むなどの問題が出てきた時期である。1970年代のアメリカが苦しむ予兆が出てきたともいえる。1969年は極めてまれな米国10年債とS&P 500がそろってマイナスリターンになった。

1950年代のS&P 500の成長

1950年代は、第2次世界大戦から世界が復活する中で、アメリカ中心の経済圏が構築された時代である。もちろん、株価も絶好調の時代であった。

10年代 x 8パターンを観察して

2024年の株価水準が高いか、今後どうなるかというのは、誰にもわからない。その上で、2024年の株価が過去と比べて成長率が極めて高い=割高だとは結論づけられない。

その一方で、今後、株価下落が起こりそうなキーワードは明確であり、それは以下の3つだ。
1)インフレ:物価上昇に不景気、物価上昇を抑えるための金利上昇による株価下落、特に住宅価格やエネルギーなどの影響が大きい。
2)戦争:特にアメリカが主導的に参加することでの経済の停滞や、紛争地域が天然ガスや原油産出国だった場合のエネルギー価格の上昇。これは、1)のインフレにもつながる。
3)バブル:大きなバブルでなくても過去の経験からテック関連のバブルや不動産バブルは大きく株が上下する。

この3つのキーワードが大きくクローズアップされてきたら注意が必要だ。1)と3)については読めないところもあるが、2)戦争については、現時点で明確な道筋がある。トランプ大統領は、好戦的な性格のようだが、2)戦争についてはやめるべきだと明確な態度を示している。これは、今後の株価について一つの安心材料だ。

トランプ大統領は、動きが読めないといわれているが、ビジネス世界で成功してきただけに、この3つのキーワードに関しての嗅覚は優れているとされるので、今後4年間の政権運営が楽しみだ。

  1. このページで参照しているデータ:https://pages.stern.nyu.edu/~adamodar/pc/datasets/indname.xls ↩︎
  2. バフェット氏、アップル株を初めて保有 - 日本経済新聞 ↩︎
  3. 「S&P500」が日本の投信純資産で16年ぶり最高更新-米株高寄与 - Bloomberg ↩︎
  4. 日米貿易摩擦 - Wikipedia ↩︎

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