投資心理学とは、投資判断において人が無意識に陥る思考の偏りや感情の影響を整理し、なぜ合理的でない判断をしてしまうのかを、経験や勘ではなく、観察や理論によって体系的にまとめた研究である。
投資心理学の目的は、人間の思考の罠を事前に知ることで、冷静さを保ち、非合理な行動を避けることである。
投資心理学では、生存者バイアス、損失回避、FOMO、確証バイアスといった多くの心理バイアスが語られる。しかし、これらの用語を個別に知っているだけでは、「なぜその判断をしてしまったのか」「どの時点で判断が狂ったのか」を説明することは難しい。
というのも、投資における心理バイアスは単発で現れるものではない。投資判断の流れの中で、複合的に、気づかないうちに入り込み、判断を少しずつ歪めていく。
投資判断は、常に感情論ではなく心理構造として捉える必要がある。投資判断は、直感だけで行われているように見えても、実際には一定の思考プロセスを経ており、心理バイアスはそのプロセスの途中で発生する「判断の歪み」である。
具体的に投資判断は、
1. 投資情報をどう受け取るか
2. その投資情報をどう評価するか
3. その評価をもとにどう行動するか
という3つの判断プロセスに分けて考える。
この記事では、この判断プロセス別の枠組みを軸に、投資心理学を体系的に解説している。全体構造を把握したうえで、各心理バイアスの個別ページを読み進めることで、自分の投資判断がどの段階で歪みやすいのかを見つけてほしい。
情報の受け取り方が歪む投資心理
投資判断の最初の段階が「情報の受け取り」になる。「どのような情報を軽視してしまうのか」という段階で偏りが生じている状態を指す。
この段階では、まだ価値判断や売買判断は行われていない。しかし、前提となる情報認知が偏っているため、その後の評価や行動も必然的に歪むことになる。このカテゴリに含まれる代表的な投資心理が、利用可能性ヒューリスティック、代表性ヒューリスティック、確証バイアス、ネガティブバイアス、ハロー効果などである。
投資心理におけるヒューリスティックとは何か?
ヒューリスティックとは、限られた情報下で素早く判断するための思考の近道(ショートカット)である。投資心理においては、膨大な情報を網羅的に処理しなくても判断できるため、人間の脳にとって負担の少ない思考法と言える。その一方で、思考の罠に陥りやすく、誤った投資判断を招くことがある点には注意が必要である。
利用可能性ヒューリスティックは、印象に残りやすい出来事や直近の情報を過大評価してしまう投資心理である。代表性ヒューリスティックは、典型的な成功例やイメージを基準に判断し、確率や前提条件の違いを軽視してしまう傾向を指す。
投資心理におけるバイアスとは何か?
投資心理におけるバイアスとは、判断の際に無意識の思い込みや感情が入り込み、情報の評価や行動が歪んでしまう心理傾向である。これにより合理的な判断が難しくなり、損失や機会損失を招きやすくなる。
このバイアスの背景にあるのが、前述のヒューリスティックである。ヒューリスティックを無自覚に使い続けると、特定の情報を過大評価したり、都合の良い解釈に偏ったりするバイアスが固定化される。
投資心理学では、思考の近道であるヒューリスティックと、そこから生じる判断の歪みであるバイアスを区別して理解することが重要である。
確証バイアスは、自分の考えを支持する情報ばかりを集め、反対の情報を無意識に排除してしまう心理である。この確証バイアスに影響されないようにするためには「ウェイソン選択課題」を理解する必要がある。ネガティブバイアスは、悪い情報ほど強く記憶され、リスクを実態以上に大きく感じてしまう傾向を生む。生存者バイアスは、成功した事例だけが目に入り、失敗した多数の事例が見えなくなることで、全体像を誤って判断してしまう投資心理である。ハロー効果は、有名経営者が率いているなどの一部の印象によって、企業全体の評価を決めてしまう心理であり、認知バイアスの一種である。
判断・評価を歪める投資心理
情報を受け取った後、人はその情報をもとに「価値判断」を行う。この段階では、情報自体はある程度揃っているにもかかわらず、判断の基準そのものが歪むことがある。このカテゴリに含まれる投資心理が、アンカリング効果、フレーミング効果、損失回避バイアス、群集心理、公正世界仮説である。
アンカリング効果は、最初に見た数字や過去の水準に引きずられ、本来は無関係な基準で評価してしまう心理である。フレーミング効果は、同じ内容でも表現の仕方によって判断が変わってしまう現象を指す。
そして、行動心理学の観点から投資行動を分析するにはプロスペクト理論の理解が欠かせない。プロスペクト理論は、人は利益よりも損失に強い痛みを感じ、期待値よりも感情を優先して判断する傾向があると説明する理論である。その具体的な表れが損失回避バイアスである。
他人や多数派の行動を「正しさの根拠」として評価してしまい、本来行うべき価値判断やリスク評価を見失ってしまうのが、群集心理である。
また、公正世界仮説は「努力すれば報われるはずだ」という前提を無意識に持ち込んでしまう心理であり、市場の不確実性を過小評価させる。
行動を縛る投資心理
投資判断の最終段階が「行動」である。この段階では、合理的な判断ができているにもかかわらず、実際の行動に移せない、あるいはやめられない状態が生じる。
このカテゴリに含まれるのが、サンクコスト効果、現状維持バイアス、後悔回避バイアス、保有効果、FOMOである。
サンクコスト効果は、すでに支払ったコストを惜しみ、誤った選択を続けてしまう投資心理である。現状維持バイアスは、変化そのものを避け、最適でない状態を維持してしまう傾向を指す。
後悔回避バイアスは、損失確定後の感情を恐れるあまり、行動を先延ばしにしてしまう心理である。保有効果は、保有している資産を実際以上に高く評価してしまい、売却判断を難しくする。FOMOは、他人の成功や上昇局面を見て取り残される不安が強まり、冷静な判断よりも行動を優先してしまう投資心理である。バンドワゴン効果は、多くの人が支持・行動しているという事実に引きずられ、自分の判断を後回しにして同じ行動を取ってしまう傾向をいう。
まとめ:投資心理学とは何か
投資心理学とは、投資判断を感情論で語るための研究ではない。人が投資を行う際に、どの判断プロセスで、どのような歪みが生じるのかという心理構造を説明するための枠組みである。
投資判断は、「情報をどう受け取るか」「どう評価するか」「どう行動するか」という三つのプロセスから構成されている。
心理バイアスとは、このプロセスのいずれかで発生する認知や判断の歪みであり、誤った行動の直接的な原因ではなく、その前段階で生じている。
このように判断プロセス別に心理バイアスを定義することで、
「なぜその判断になったのか」
「どこで前提が歪んだのか」
を後から説明することが可能になる。
投資心理学の目的は、感情を排除することではない。人は感情を持ったまま判断する存在であることを前提に、その感情や思考のクセが、どの段階で判断に影響したのかを言語化できるようにすることにある。
投資心理学は、投資の聖杯ではない。自分の判断がどこで歪みやすいのかを説明できるようにするための、思考の地図である。また、投資感情(不安や恐怖・期待や欲望・自尊心)の働き方とその向き合い方を解説している記事、「投資感情とそのコントロール方法」も参考にしてほしい。

