ウォーレン・バフェット氏の名言に「我々のお気に入りの保有期間は永遠だ1」というものや「10年間株を保有する気がなければ、10分間保有することさえ考えない方がいい2」というものがある。
この言葉が象徴するように、バフェット氏は割安株を長期保有する投資家として広く認知されている。だが、短期保有の銘柄もかなり多いことはあまり知られていない。
昨今、市場はバフェット氏の行動で一喜一憂する。それに振り回されないためにも、バフェット氏の短期保有銘柄と長期保有銘柄を研究したい。
短期保有銘柄: バフェット氏が買った株の22%は半年未満で売却?
2024年にウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイが短期間で売却した銘柄がある。それは、大手美容製品小売チェーンのアルタ・ビューティーである。2024年4~6月期の報告書で、2.66億ドル(約400億円)の新規取得が報告された。バフェットが取得したということで、アルタ・ビューティーは発見されてなかった割安株ではないか?ということで大きく盛り上がった3。しかし、わずか3か月後の2024年7~9月期の報告書では、95%以上を売却していることが判明した4。そして現在は保有してない5。素早い撤退である。
バフェット氏に関しては、このような盛り上がりは今まで何度もあった。「金は輝くだけで役に立たず、何かを生み出すものではない6」とバフェット氏が公言したこともあり、「あのバフェット氏が金を買う」ということで大注目を浴びた金鉱株のバリック・ゴールドの株式取得である。
バークシャー・ハサウェイの2020年4~6月期の報告書で初めて現れたバリック・ゴールド社の株式保有は、2020年10~12月期の報告書からは消えていた。一説によると40Mドル(約60億円)程度の損失が出たということだ。これも、素早い撤退ともいえる。
つまり、このような短期保有は珍しくない。1998年以降に投資が明らかになった175銘柄のうち、半年未満の保有(報告書に1回から2回の登場)は39銘柄である7。つまり、22%が素早い撤退になっている。
昨今市場が湧いたドミノピザ株の取得も、バフェット氏が長期投資の目的でこれからも徐々に買っていくと結論図けるのは時期尚早だろう。
バフェット氏が保持する長期保有株
それでは、バフェットが数十年単位で保有し続ける銘柄はどんな銘柄であろうか?
具体的な長期保有銘柄3つ
バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)は、2011年からの保有で、金融業界のリーダーとしての地位にある企業ということだけでなく、リーマンショックからの立直りの時期で取得されている。
アメリカン・エキスプレス(American Express)も1991年に最初に保有された。全売却された時期もあったが、金融業界でのブランド力と収益性の高さから保有されている。
コカ・コーラ(Coca-Cola)は、1988年に取得されて以来、約36年もの間保有されている。圧倒的なブランド力と安定したキャッシュフローが、長期保有の理由だろう。売り必要がない株ともいえる。
これらの銘柄は、強固なブランド力、そして市場における競争優位性による収益力を持っている会社ともいえる。ただ、そのような企業であることは誰にでもわかる。つまり、このような株が通常割安なケースはあまりない。取得タイミングがなかなかない株なともいえる。
主要ポートフォリオをいつ初回取得したか?
そこで、いつ取得したのかという視点で、2025年2月14日時点でのバークシャー・ハサウェイ社のポートフォリオ、上位5社を見てみる8。
銘柄名 | 初回取得年 | 保有期間 | ポートフォリオ内の割合 |
---|---|---|---|
アップル(Apple Inc.) | 2016年 | 約8年 | 25% |
アメリカン・エキスプレス(American Express) | 1991年 | 約33年 | 15% |
バンク・オブ・アメリカ(Bank of America) | 2011年 | 約13年 | 10% |
コカ・コーラ(Coca-Cola) | 1988年 | 約36年 | 10% |
シェブロン(Chevron) | 2020年 | 約4年 | 6.3% |
誰もが知る強い会社をタイミングよく買ったものが残っているといえる。
・株式が総じて安かった2016年に時価総額No.1だったアップル。
・金融危機後のバンクオブアメリカ
・コロナ禍で行動制限された(ガソリンへの需要が低くなった)後の石油会社のシュブロン
など、取得タイミングが絶妙のもの=儲かるものだけを長期保有していることがわかる。
つまり、バフェット氏の投資戦略は
投資戦略をまとめると
- 誰も納得する競争力(ブランド力)がある企業の株を
- 割安だと思う時期に取得し長期保有する
- ただし、割安でなかったら短期で売ってしまう
というのが、バフェット氏の投資戦略であろう。
つまり、儲けるためには、長期保有は投資コンセプトとしては重要であるものの、打診買いをしてダメだったらすぐ撤退する機動性も同じぐらい重要だということだ。
こう考えるとバフェット氏が買ったという報道でうかつに動くのは危険ではないか?と考えてしまう。いずれにしても、割安株を長期保有する投資家バフェット氏という印象とは違った投資スタイルが浮かびあがる。
- ウォーレン・バフェットが明かす、成功のための9つのアドバイス | Business Insider Japan ↩︎
- バフェット氏の投資会社、アップル株を一部売却 - CNN.co.jp ↩︎
- 【米国株】バフェット氏、株価水準が割安な化粧品小売りチェーンアルタ・ビューティー[ULTA]と航空宇宙・防衛分野ハイコ[HEI]に新規投資 | 岡元兵八郎の米国株マスターへの道 | マネクリ マネックス証券の投資情報とお金に役立つメディア ↩︎
- 【米国株動向】ウォーレン・バフェット氏がアルタ[ULTA]の持ち分を減らしたのは売りの合図なのか? | モトリーフール米国株情報 | マネクリ マネックス証券の投資情報とお金に役立つメディア ↩︎
- バフェットの最新ポートフォリオ、市場が総悲観になっても買い向かえる戦略とは? | 石原順の米国株トレンド5銘柄 | マネクリ マネックス証券の投資情報とお金に役立つメディア ↩︎
- 「金嫌い」のバフェット氏、金投資に動く - 日本経済新聞 ↩︎
- 202104281024529352.pdf ↩︎
- Berkshire Hathaway Portfolio Tracker ↩︎