SNSで投資情報を見ていると、
「5年で1億円の投資術」
「50万円を50億に増やした」
といった成功例が次々と流れてくる。
一方で、自分の投資成績はそこまで派手ではない。すると、「自分は投資の才能がないのではないか」、「自分は投資に向いていない」と、不安や劣等感を抱いてしまう。
しかし結論から言えば、その感情の多くは投資の実力差ではなく、認知の歪みから生まれている。その正体が生存者バイアスだ。
生存者バイアスとは?意味をわかりやすく解説
生存者バイアスの定義
生存者バイアスとは、「結果的に生き残った成功例だけを見て判断してしまう認知の偏り」のことだ。
まず「5年で1億円の投資術」が高い再現性があれば、もっと日本に富裕層が増えても良い。「行動してないだけ」と成功者は言うかもしれない。
これを鵜吞みにする必要もないだろう。というのも、成功者がもつ運(ラッキー)の部分、つまり、生存者ラッキー情報を正しく理解してない可能性があるからだ。
生存者バイアスの具体例|爆撃機の有名な事例
生存者バイアスの理論的背景として有名なのが、第二次世界大戦中の爆撃機の損失分析だ。1。敵の射撃による爆撃機の損失を最小限に抑えるため、帰還した爆撃機の被弾箇所を調査したところ、ある特徴的な分布が確認されたとする2。
ここで、クイズだ、以下の図のポイント1とポイント2のどちらが正しい分析だと思うだろうか?

なぜ「被弾していない場所」を補強するのが正解なのか
ポイント1は、被弾した場所の装甲を強化するということだ。被弾に対して耐性をつけるという意味では、一見理にかなっているような気がする。ただし、これが生存者バイアス=生存者のラッキー情報の認知の間違いである。
調査対象にできるのは、帰還できた爆撃機だけであり、墜落した爆撃機の損害は調べられない。つまり、被弾した個所は、被弾しても帰還できる場所を示している。
ここまでくると正解は、ポイント2の被弾してないところの装甲を強化するということがわかる。
この案の理論的背景は、直感的にも理解しやすい。コックピット、エンジンや後部の胴体が折れやすい部分、羽が折れやすい部分などは、致命傷になりやすい。つまり、結果ではなくその結果にまつわる理論的背景を知ることが一番重要なのである。
ただし、生存者バイアスの存在で、多くの人はポイント1を選んでしまう。
生存者バイアスを投資戦略に当てはめるとどうなるか?
書籍やSNSなどで、少額から株式投資で巨万の富を築いたと紹介される手法は、大きく次の2つに分類できる。
・清原達郎氏の手法に代表される「小型成長株集中投資」
・ウォーレン・バフェット氏の手法にも通じる「バリュー株長期集中投資」
これらに共通する背景には、プロスペクト理論における損失回避バイアスがある。プロスペクト理論とは、人は利益を得る喜びより、損失を被る痛みを大きく感じるとする利用論だ。その中核にある概念が、損失回避バイアスで、痛みを感じる損失をできるだけ回避しようという心理が働くとしている。
この心理により、投資家は損失を強く嫌うため、不人気な銘柄はさらに敬遠されやすく、その結果として理論株価以上に売られやすい。つまり、不人気銘柄ほど割安になりやすい構造が生まれる。著名投資家は、これを徹底した銘柄分析で読み解き大きなリターンを上げている。
理論的背景というのは、常に数行で説明できるシンプルなものだ。
もちろん、低位株投資(ボロ株投資やイナゴタワー投資)などで「一発当てる」ことも可能だが、これはギャンブル性が高く、リスク管理・再現性の観点から投資手法として紹介しにくい。
有名投資家の手法が再現しにくい本当の理由
結局のところ、銘柄選定がすべてであり、銘柄選定に成功した人だけが「再現性のある投資手法」として語られる。そして、銘柄選定には正解がない。
これが、投資における生存者バイアスの本質である。
なお、銘柄選定についても、ウォーレン・バフェット氏は「打診買い」を基本としており、それについても1文で紹介できる。また、資産が膨らんだ背景には長期投資の成功、つまり、健康で一般人よりも長く現役投資家として活躍できたことも大きく関係している。
SNSの投資成功例に生存者バイアスがかかる仕組み
SNS上の投資結果と自分の投資成績を比べて、みじめな気持ちになる人は多い。しかし、それはあなたの投資センスが劣っているからではない。SNSに表示されているのは、銘柄選定でうまくいったという「生き残った成功例」だけであり、そこには強烈な生存者バイアスがかかっているからだ。
比較している対象そのものが歪んでいる以上、感情が不安定になるのは当然と言える。
生存者バイアスが自己肯定感を削るメカニズム
生存者バイアスは、投資成績だけでなく、自己評価にも影響を与える。
「普通のサラリーマンでも勝てているのに自分だけ勝てていない」という誤った前提が、
・無理なリスクを取る
・短期売買に走る
・投資方針を頻繁に変える
・投資詐欺に引っかかる
といった行動につながり、結果的にパフォーマンスを悪化させてしまう。特にSNS上での投資詐欺には注意が必要だ。
まとめ|生存者バイアスを前提に投資判断をしよう
正しい比較対象は「市場全体」と「長期データ」
投資において比較すべきなのは、SNSの成功者ではない。市場全体の平均の長期データと自分の運用結果を比べることが重要だ。
派手な成功例よりも、
・再現性があるか
・長期で成立しているか
・リスクに見合ったリターンか
を基準に判断することで、投資の不安は大きく減らせる。
投資の不安は、感情ではなく、理論と数字で解体できる。生存者バイアスを前提に世界を見ることが、冷静で納得感のある投資判断への第一歩だ。
- 生存者バイアス - Wikipedia ↩︎
- Martin Grandjean (vector), McGeddon (picture), US Air Force (hit plot concept) - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, リンクを使い筆者が作成 ↩︎
