S&P500のアノマリー

S&P500のアノマリー10月編(2025年度版)

10月のパフォーマンスを過去X年での平均パフォーマンスで評価するのは難しい。その理由は、2つの異常値、ブランクマンデー(1987年)とリーマン・ショック翌月(2008年)の存在がある。また、もう一つは10月は米国選挙の前月という側面もあり、2年ごとの選挙がある年には10月の不確実性が上がる。

その為、10月のパフォーマンアスを分析する際には、いろいろな要素を排除して分析をしていくべきだろう。

10月の起こった2つの異常値:ブラックマンデーとリーマンショック翌月

過去の40年間の月間パフォーマンス:ワースト5

まずは2つの異常値であるがこれはすごい異常値である。以下が月別のワーストパフォーマンスだがその異常ぶりがわかる。

順位年月月間リターン(%)要因
1位
1987年10月
-21.8%
ブラックマンデーの発生で月間でも歴史的暴落
2位2008年10月-16.9%リーマン・ショック直後で市場が崩壊
3位1998年8月-14.6%ロシア財政危機によるパニック売り
4位2020年3月-12.5%パンデミック初期、世界同時株安
5位2002年9月-11.0%会計不正発覚によるワールドコム破綻で企業への信頼性低下

これを月ごとのヒストグラムで見てみると異常値であることがはっきりとわかる。マイナスに2つほど飛びぬけているもの(左側に大きく酔っているもの)があるが。これがブラックマンデー(-21.8%)とリーマンショックの翌月(-16.9%)である。

これは10月のリターン分布をみるとよりわかる。以下の図には2つほどマイナスリターンの異常値ともいえる離れた位置に紫のバーがある。これが、ブラックマンデー(-21.8%)とリーマンショック直後(-16.9%)だ。

S&P500における10月は良い

10月においてこの2つの影響を排除してみるとすこぶるパフォーマンスは良い月と言えるだろう。特にこのような異常値が起こらなかった過去10年平均では、11月、7月に続く月別パフォーマンスは第3位だ。

期間月間平均リターン月別順位
過去10年1.3%3位
過去20年0.8%5位
(過去20年 リーマンショック抜き)(1.7%)(4位)
過去30年1.5%3位
(過去30年 リーマンショック抜き)(2.2%)(2位)
過去40年1.0%8位
(過去40年 リーマンショック、ブラックマンデー抜き)(2.0%)(1位)

S&P500の10月の月別リターン分布

過去40年の10月の月別リターンの出現をプロットしたのは以下の図である。この図では、リターンの出現回数を0.5%刻みにカウントして棒グラフ化したもの(ヒストグラム)である。

  • 月間平均リターンは1%である。プラスリターンになったのは25年(63%:水色の部分)
  • -5%以上の大幅下落になったのは3回(8%の確率)、その一方で+5%以上の大幅上昇になったのは9回(23%の確率)と大幅上昇の回数は多い。
  • 正規分布を使うと「68.3%の確率で、-5.2%から7.1%のリターン」が得られる、または「95.5%の確率で、-10.5%から3.7%のリターン」が得られるという分析が成立つ。

10月は選挙前である

アメリカでは選挙は原則として11月の第1月曜日の翌日の火曜日(多くの場合11月の第1火曜日)に一斉に行われる。これは1845年に連邦法で定められた制度で、農業社会だった当時、人々が収穫を終え、冬が始まる前の移動しやすい時期として11月が選ばれた。火曜日にしたのは、日曜日の礼拝を避け、月曜日に移動する余裕を持たせるためである。

大きな選挙は4年に一度の大統領選挙と、その中間に行われる中間選挙である。つまり、2年ごとに大きな選挙が行われる。

この制度により、大統領選挙、連邦議会選挙、州・地方選挙が同日に実施され、選挙関連の事務を効率化し、投票率の向上にもつながっている。一方で、日本のように選挙ごとに日程が分かれている国とは対照的である。

10月はその影響もあり、uncetaintly、つまり、不確実性が極めて高くなる月である。そして、市場はこの不確実性を嫌う。

大統領選

大統領選年の10月はパフォーマンスが悪いといっても過言ではない。特に大統領候補においてどちらかが明確に勝つと決まってない状況では、明確に10月のパーマンスは悪くなる。

ただし、ひとたび大統領が決まれば、誰が大統領になっても不確実性は少なくなり株価は上がる。2016年にトランプ大統領が当選した際にも、政治のプロではない政治家であるトランプ大統領が勝ったことで不確実性は高かったが、ひとまず決まったということで株価は上がった。

10月リターン11月リターン現職勝敗選挙結果の解説(100文字)
2024
-1.0%5.7%負けインフレによる不満で、トランプが勝利した。
2020-2.8%10.8%負けコロナ対応への不満と郵便投票拡大により民主党のバイデンが勝利し政権交代が起こった。
2016-1.9%3.4%負け予想外の結果で共和党のトランプが勝利し、オバマ政権からの政権交代が実現した。
2012-2.0%0.3%勝ち経済回復基調を追い風にオバマ大統領が再選され、民主党政権が継続された。
2008
-16.9%
-7.5%負け金融危機のさなか、民主党のオバマが大差で勝利し、共和党政権から交代となった。
20041.5%4.0%勝ちイラク戦争下での選挙だったが、ブッシュ(子)が勝利し共和党政権が継続された。
2000-0.5%-8.0%負けフロリダ州再集計の混乱の末、共和党ブッシュ(子)が僅差で勝利し政権交代が起こった。
19962.6%7.3%勝ち経済好調の追い風を受けてクリントン大統領が再選を果たし、民主党政権が継続した。
19920.2%3.0%負け経済停滞とブッシュ(父)への不満から民主党のクリントンが勝利し政権交代が起こった。
19882.6%-1.9%勝ちレーガン政権の高支持を背景に、共和党のブッシュ(パパ)が勝利し与党政権が継続された。

中間選挙

アメリカの中間選挙とは、大統領の任期4年のちょうど中間にあたる2年目の11月に行われる選挙。この選挙では、下院議員全員(435人)と上院議員の約3分の1(任期6年のうち2年ごとに改選)、さらに多くの州知事や地方議員なども選ばれる。

直掩の株価という点で言えば、影響は大統領選ほどないといえる。というのも、
・大統領選2年目はこの10月前までのパフォーマンスがすでに悪くなっている
・だいたい与党(現職大統領所属党)が負けるのが通例で株価が織り込まれやすい=不確定要素が少ない
ということがある。

10月リターン11月リターン
与党勝敗
選挙結果
2022
8.0%5.4%負け
(ねじれ)
バイデン政権下で民主党が上院多数を維持する一方、共和党が下院で過半数を奪取し、ねじれが発生。
2018-6.9%1.8%負け
(ねじれ)
トランプ政権への批判票が集まり、上院は共和党が多数派を維持したものの、民主党が下院を奪取し、議会のねじれが再び発生。
20142.3%2.5%負けオバマ政権後半の停滞感が広がり、共和党が上院で過半数を獲得し両院で多数派に。
20103.7%-0.2%負け
(ねじれ)
オバマ政権の医療改革などに反発が集まり、民主党は上院では多数派を占めたが、共和党が下院で大勝しねじれが誕生した。
20063.2%1.6%負けイラク戦争とブッシュ政権への不満が強まり、民主党が上下院で過半数を奪還した。
20028.6%5.7%勝ち9.11後の安全保障重視ムードでブッシュ政権が支持され、共和党が上下院で多数派を拡大した。
19986.2%5.9%勝ち
(?)
クリントン大統領のモニカ・ルインスキーとの性的スキャンダルがあったのにもかかわらず、会員で民主党が議席を増やした為、勝ちと言われている、尚、議席では共和党が上下院で多数派であった。理由は経済が良かったから。
19942.8%2.3%負けクリントン政権への不満が高まり共和党が上下院で過半数を奪取。「共和党革命」と呼ばれた。
1990-1.2%5.6%負け上下院で民主党が多数を維持したが、そこまで議席は動かなかった。

中間選挙は、「大統領の通信簿」とも呼ばれ、現職大統領と与党の政策や政権運営に対する国民の評価を示す機会となる。歴史的に見ると、大統領の所属政党は中間選挙で議席を失う傾向がある。また、議会のねじれ(上院と下院の多数派が異なる状態)という状態を発生、議会において与党の政策を通すのが難しくなる。

これにより、極端な政策が出せなくなり、バランスが取れた政策ができ結果的にはねじれていたほうのほうが株価が好調という話もある。もちろん、議会のねじれで大きく弊害が出たケースもあり、それは2011年8月の米国債券格下げ事件がそれだろう。

ただ一般的には、中間選挙は与党が負ける。1990年代以降勝ったのは、アメリカ同時多発テロで求心力が高まった2002年のブッシュ政権=ただし、株価は振るわなかったと、経済がかなりよく、事前に大敗を予期されながらもそれほど大敗しなかった1998年のクリントン政権のみである。

総論では10月は良い月?

10月は、選挙がない年(不確実性が高まらず)かつ、大規模イベントが起こらないとすると非常力ず良いパフォーマンスを示している月と言えよう。

-S&P500のアノマリー