結論として、S&P500の1月は上昇しやすい傾向がある。ただし、上昇確率はそれほど高くなく、特に過去20年ではリーマンショック期の影響もあり結果が大きくばらついている。1月は「その年の市場ムードを織り込みやすい月」であり、単純に“上がりやすい月”と断定することはできない。
株式市場には「アノマリー」と呼ばれる、経験則的に繰り返し観測される株価の値動きの偏りが存在する。
1月のS&P500の値動きにも、アノマリーがあり、
・ 月間リターンは平均以上=上昇しやすい
・ 上昇確率はそれほど高くない=下落する時もある
という“読みづらい特徴”を持っています。では、この読みにくさをどう理解すればよいのか。
鍵になるのは、1月の時点で市場がどのようなムードにあるか?。年初の投資家心理や経済環境が良好であれば、1月はそのムードを素直に織り込みやすく、上昇する可能性が高まる。
この仮説がどこまで妥当なのか、S&P500指数の長期データを用いて検証していきたい1。
S&P500の1月の月間平均リターンと上昇確率
1月のS&P500の月間リターンは、過去10年から過去40年まで分析ですべてプラスリターンを示している、上がりやすい月である。
| 期間 | 月間平均リターン | 上昇確率 |
|---|---|---|
| 過去10年 | +1.4% | 60% |
| 過去20年 | +0.2% | 55% |
| 過去30年 | +0.4% | 57% |
| 過去40年 | +1.0% | 63% |
S&P500の1月は良いパフォーマンスなのか?
過去10年間の1月の平均リターンは+1.4%。月間1.4%のリターンが12か月続けば(年率換算すれば)リターンは約17%となる。これは、S&P500の過去10年の年間プライスリターン(約11%)を大きく凌駕する。ただし、過去20年では、約2.4%となり非常に悪くなる。これはなぜなのか?
過去20年で1月が弱い理由
過去10年と過去20年の差は、リーマンショック時期の2008年と2009年の2年の極端に悪いパフォーマンスである。
2008年1月の月間パフォーマンスは、-6.1%。リーマンショックは、2008年9月であるが、当時の市場は1月の時点で「問題は大きい」と認識し始めたことも言える。2008年の年間パフォーマンスは、-38.5%と大幅に下落した年でもある。
2009年1月の月間パフォーマンスは、-8.6%。リーマンショック直後の年初であり、信用市場は依然として機能不全に近く投資家心理は冷え込んでいた。その状況を反映して、大幅なマイナスとなったが、株式市場は大きくリバウンドし、年間パフォーマンスは+23.5%と大規模な上昇となった。
年間リターンは真逆な結果となったが、この2年が過去20年の分析で大きな影響を与えていることから、過去10年やより長い過去40年のパフォーマンスを参考にするのが良いだろう。
次は、上昇確率と関連したリターン分布分析だ。
S&P500の1月のリターン分布から見える特徴
以下が、過去40年の1月の月間リターンの出現回数を0.5%刻みに分けてカウントして棒グラフ化した分布図(ヒストグラム)である。尚、この分布図は、例えば0%とから0.5%のリターン(横軸)が1回出現した(縦軸)、4%から4.5%のリターン(横軸)が4回出現した(縦軸)と読む。

この表を見ると平均である1%部分にデータが少なく、出現回数が最も多いのは、+4%から+4.5%のレンジとなる。次に多い出現回数3回として、-5%から-5.5%というのがある。これは、シンプルに言えばデータがばらけている=予測しにくいと結論づけられる。
安定して上昇する5月や6月は、過去10年では上昇確率が90%にもなるが、1月は勝率が60%しかない。
このバラつきを標準偏差として表すと4.6%であり、S&P 500の月別データではバラつきが大きい方だ(最もバラつきが少ない5月のグラフと比べるとそれがわかる)。このデータは、68.3%の確率で、月次リターンが-3.6%から5.5%に収まるということを表している。
1月の年別S&P 500 ベストリターン
近年では、パフォーマンスが良かった年として、2023年、2019年が上位に入っている。この2つの年の特徴として、前年に株価が下落しており金融緩和ムードが広がっていたということがある。1月のパフォーマンスは、その年の株価を占うという報道が良くされている為、その当時の経済状況をサプライズなく織り込みやすいともいえる。つまり、ムードが重要だということだ。
過去40年で見ると1987年の+13.2%が圧倒的なパフォーマンスを見せている。これも当時の楽観ムードを織り込んでということであるが、その楽観は10月にはブラックマンデー、1日で22.6%の史上最大の下落という形で終焉した。つまり、1月が良いからその年がずっと良い(アノマリー:1月の相場はその年の相場の鏡 - January Barometer)というほど、シンプルには言い切れない。
1月はその時点でのその年の予測を盛り込みやすいだけであり、その予測が年間リターンになるわけではない2。
| 順位 | 過去10年 | 過去20年 | 過去30年 | 過去40年 |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | 2019年(+7.9%) | 2019年(+7.9%) | 2019年(+7.9%) | 1987年(+13.2%) |
| 2位 | 2023年(+6.2%) | 2023年(+6.2%) | 2023年(+6.2%) | 2019年(+7.9%) |
| 3位 | 2018年(+5.6%) | 2018年(+5.6%) | 1997年(+6.1%) | 1989年(+7.1%) |
1月の年別S&P 500 ワーストリターン
ワーストリターンで目立つ、2008年と2009年は、リーマンショックの前後であり市場参加者のマインドが非常に悪かった。これは、コロナバブルで株価が上がりすぎていた2022年も同様であった。つまり、1月はその年の予測を織り込みやすい、ムードが重要な月だ。
2009年、2016年、2021年などのワーストランクに入っている年でも、年間としてみれば高パフォーマンスを叩き出している。これも、1月の状況と年間のパフォーマンスが関係ないという証明だ。
| 順位 | 過去10年 | 過去20年 | 過去30年 | 過去40年 |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | 2022年 (-5.3%) | 2009年 (-8.6%) | 2009年 (-8.6%) | 2009年 (-8.6%) |
| 2位 | 2016年 (-5.1%) | 2008年 (-6.1%) | 2008年 (-6.1%) | 1990年 (-6.9%) |
| 3位 | 2021年 (-1.1%) | 2022年 (-5.3%) | 2022年 (-5.3%) | 2008年 (-6.1%) |
S&P 500の1月の投資ポイントは?
キーポイントは3つである。
- 1月は過去10年だと月間+1.4%と平均パフォーマンスを大幅に上回っている。
- 過去のパフォーマンスにはばらつきがあり、上昇確率は、過去10年で6割と高くない。
- 1月の特徴を捉えるのは難しいが、その時点での年間予測は織り込みやすい。ムードが良ければ、そのムードをサムライズなく順当に織り込みやすい時期。
- S&P 500 Index (SPX) - Investing.comのデータを利用した。 ↩︎
- アナリストのS&P500予想は当たるか? - 教えてほしかったお金の話が参考になるが、アナリスト予測などのマーケット予測は当たらない。 ↩︎