投資は自己責任?勉強信仰を疑うための公正世界仮説

2026年1月13日

株式投資に真剣に取り組む人ほど、情報収集に多くの時間を費やす。企業の決算資料を読み、マクロ経済を学び、SNSやニュースを追い続ける。その結果として「ここまで調べたのだから、この銘柄は大丈夫だろう」と感じた経験はないだろうか。

この感覚の背景には、心理学でいう公正世界仮説が深く関係している。

公正世界仮説とは「努力した人は報われるはずだ」と世界が公正に成り立っていると信じてしまう心理傾向である。本来、世界は必ずしも公正ではない。不確実性が高い株式投資は、この公正世界仮説が最も強く作用しやすい分野の一つであり、「勉強したら投資で勝てる」という心理状態を作り出す。

本記事では、この公正世界仮説を投資心理学として整理する。

公正世界仮説と、「勉強すれば勝てる」の関係性

公正世界仮説(Just World fallacy)1とは、「努力した人は報われ、不正をした人は罰せられるはずだ」と世界観を盲信してしまう心理的傾向を指す。1960年代に社会心理学者メルヴィン・ラーナー(Melvin J. Lerner)2によって提唱された概念であり、人が不確実で不条理な現実をそのまま受け入れることの困難さから生じる防衛的な認知とされている。

ラーナーの実験では、無作為に苦痛を受けている他者を見た観察者が、「その人にも何らかの落ち度があるのではないか」と評価を歪める傾向が確認された。これは、「理不尽な被害が起こり得る世界」を認めるよりも、「世界は基本的に公正である」と信じる方が心理的安定を保てるためである。

投資と公正世界仮説の関係

この仮説は、努力・能力・結果が必ずしも比例しない現実に直面した際に、自己責任論を生みやすいことが知られている。

投資など成果の不確実性が高い分野では、失敗した時に人は何か原因を追究する。つまり、「ここまで努力したのだから、自分は報われるはずだ」という錯覚を通じて、投資は理解できない、投資は詐欺だなどの感情が芽生え、投資を辞めるきっかけになるかもしれない。

公正世界仮説が「自己責任論」に変わる瞬間

公正世界仮説を知らないと、SNS上でよく言われるような、株式投資について「勉強が足りないから負けた」「もっと調べていれば勝てた」という言葉に心理的に左右される。

ただし、これは、勉強量と投資成果が比例するという前提であり、公正世界仮説が提唱している思考の罠にはまっていると言える。

情報収集と勉強量と投資結果は比例するのか?

株式投資においては、結果は必ずしも努力量に比例しない。市場はランダム性を含み、短期的には偶然が大きく影響する。どれほど分析しても、予測不能な要因で株価は動くし、完全な投資理論はない。

例えば、インデックス投資家が信奉する「効率的市場仮説」も万能ではない。統計分析を使った見方で言えば、リーマンショックはほぼ発生しない確率であるが、実際には発生している(なぜ長期投資家が狼狽売りするか:ハイピーク・ファットテール現象を参照のこと)。

つまり、基礎知識は勉強したほうが良いが、銘柄選定において「これだけ調べたのだから」という思考が強くなると、損失が出たときに大きな心理的歪みが生じる。

勝ち続ける投資家が信じている世界観「公正さ」ではなく「確率論」

株式投資は、道徳的に公正な世界ではない。努力した人が必ず報われるわけでもなく、勉強していない人が勝つこともある。投資で向き合うべきなのは、「正しさ」ではなく「確率」である。

どんな人も勝つときもあれば、負けるときもある。

世界最強ファンドが教えてくれる「確率で勝つ」という発想

世界最高の投資家として名高いウォーレン・バフェット氏。そのバフェット氏よりも高いリターンを叩き出していると言われているジム・シモンズ氏。表舞台に出て活動することがないのであまり知られていないが、クオンツ(数理金融)を専門とする人の間では、知らない人はいないほどの天才である。

氏の運営するファンドは、1988年から2018年までの間で、手数料考慮前で年間平均リターンは66.1%を叩き出したと言われている3。ただし、各取引の勝率という意味では、50.75%だったと言われている4

これは、クオンツ(数理金融)というものは、小さな利益を得る行為を大量に反復することでリターンを出すという投資信念ともいえる。そこには、株式市場で、株の取引の大量行動を行うことが公正かどうかは関係ない

まとめ:「勉強すれば勝てる」という発想を手放す

公正世界仮説は、人が不確実な世界を生きるための心理的な支えである。一方で、株式投資においては、この仮説が不安や疲労を増幅させる原因にもなる。

情報を調べた分だけ報われる」という発想は、安心感を与えるが、現実とは必ずしも一致しない。投資で必要なのは、努力量の最大化ではなく、自分が信じられる投資判断ロジックを持つことである。

その為には不用意に投資情報を追うのではなく、アクティブ投資の理論インデックスファンドの投資理論を勉強し、必要な基礎知識を得て、自分なりの投資への向き合い方を考えてみるのはいかがだろうか?

また、人間が本来持つ思考の癖や心理的な罠を理解することが重要である。投資判断を狂わせやすい代表的な心理や思考の罠について、投資心理学の面から体系的に解説した以下の記事も参考にしてほしい。

  1. Just-world fallacy - Wikipedia ↩︎
  2. Melvin J. Lerner - Wikipedia ↩︎
  3. Jim Simons - Wikipedia ↩︎
  4. Famed Medallion Fund “Stretches . . . Explanation to the Limit,” Professor Claims | Institutional Investor ↩︎

-投資心理学