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トランプ大統領の関税発言とS&P 500の暴落の歴史

2025年3月21日

2018年から2019年にかけて、S&P500は幾度となく激しい値動きを見せた。主要因は、トランプ大統領による関税政策というか、SNS上での物言い(トランプ発言)だろう。この2年間は特に経済状況というよりも、トランプ大統領の発言が市場心理を大きく揺さぶり株価の乱高下が起こった。特に2018年のS&P500は10%以上の短期的な暴落(調整局面)を3回も引き起こす大荒れ相場だった。

現在、2期目のトランプ大統領の関税発言にハラハラしている人も多いだろう。そこで、2018年から2019年のS&P 500の値動きと共に振り返っていきたい1

2018年から2019年に何が起こったのか?

2018年から2019年までは、S&P 500の「調整」といわれる直近の高値から10%以上の大暴落が3回発生している。それに加えて5%以上の下落が3回発生した。特に2018年の9月末からクリスマスかけての2回の10%以上の下落を1つに捉えると20%と大きな大暴落が起き、不安定な株式相場が続いた。ただし、2019年後半から株価はきゅそうに持ち直し、この2年間も長い目で見ればリーマンショックからの回復から続く、上昇相場の一部ということになった。

プロローグ:最初の調整局面(-10%)に関税は関係ない?

2018年1月26日、S&P500は2,873ポイントの最高値を記録する。しかし、その直後の2月8日には、2,581ポイントまで急落し、10%の下落、S&P 500で言う調整局面となった。

この下落は、FRBによる利上げ観測が主因であり、トランプ大統領の関税発言とは無関係であった。2017年のトランプ減税によるS&P 500上昇への反動もあったといえる。

ともかく、2018年の下落のスタート関税問題ではなく金利問題だったわけだ。金利上昇懸念と関税のダブルパンチで起こったのだ。以下が該当期間における米国政策金利の推移だ2

つまり、後述するストーリーは、この政策金利の動きも含めて読みとく必要がある。

2018年3月から始まったトランプ関税発言相場

2018年3月の第1回目の関税がらみの下落(-5%)

1月から2月の休息な下落から相場は一旦持ち直すものの、3月1日に状況は一変する。トランプ大統領が鉄鋼とアルミニウムに対する関税を発表したのである。具体的には、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課すと発表し、さらにツイッター上で「貿易戦争は良いもので、簡単に勝てる」と投稿。これにより、市場は「貿易戦争」への懸念を強め、リスクオフの流れが強まった。

2018年3月9日のピーク(2,787ポイント)から3月22日には2,644ポイントまで約5%のドローダウンを記録した。尚、この期間は前述するように金利上昇していく期間とも重なっている。

2018年4月から9月までの様子見の回復基調(+11%)

ただし、下落は短期的であった。米国経済指標の堅調さや企業業績の好調さが下支えとなり、3月22日のボトムである2,643.7ポイントから9月にかけては、S&P500は回復基調を強めていく。経済が良ければ株価は上がる。特に、テクノロジー株や消費関連株が市場を牽引したことで、9月20日には2,930.8ポイントと過去最高値を更新した。

しかし、市場の地合いは、金利上昇と共に不安定さを増していく。9月末には米中貿易摩擦の交渉が停滞し始めたほか、10月にはFRBの利上げ継続方針が再度警戒され始め、金利上昇が止まらないのではないかという不安が市場を支配していた。

2018年10月から12月市場が動揺しトランプ関税大暴落=調整局面 x 2回(-20%)

株式市場で異例ともいえる10%のドローダウンが短期的に2回も起こったという大ボラティリティ劇場がこの時期だ。

1回目の調整局面は、10月11日には9月20日のピーク2,930.8ポイントから6.91%下落し、2,728.4ポイントまで急落するドローダウンが発生。その後、短期的に戻したものの、11月23日には2,632.6ポイントまで下げ、結果として10%以上のドローダウンが確認され調整局面となった。この期間、S&P500は短期的な反発を挟みながらも断続的に下落を続け、投資家心理は悪化の一途をたどった。

特にツィッターなどのランダムにされるトランプ発言に市場が振り回され、非確実性の極みという状況であった。

2回目の調整局面は、12月3日から12月24日までのクリスマスイブまでの16%以上のの調整局面だ。これは、米中貿易交渉の行き詰まりに加えて、トランプ大統領が対中関税の更なる拡大を示唆。利上げに反対であるトランプ大統領が、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の解任を議論している、という報道がでたのも12月後半だ3

米国政策金利は上昇し続けたこともあり、市場は大きく動揺し、12月24日のクリスマスイブには2,351ポイントまで下落した。結局はこれが底であったが、2018年12月はS&P500が短期間で5%以上の複数の下落局面を記録しており、マーケットは「クリスマスショック」とも呼ばれる深刻な調整局面、悲観相場であったことは間違いない。

尚、この2つの10%以上の暴落を総合し、約20%の下落幅を記録する大幅な暴落が発生したとも定義できる。

2019年は全般的に回復基調

2019年もトランプ大統領に振り回された相場であるが、2018年よりも幾分下落ボラティリティは収まったとも言える。

2019年4月までの回復基調と最高値更新(+25%)

2019年に入ってからは、S&P500は回復傾向にあった。これはFRBがさらなる利上げに消極的に転じたことが大きい。また、トランプ大統領はビジネスマンということで、うまいディールをするのではないかということで米中通商協議の進展期待が相場を支えた。この結果、2024年12月24日から4月30日までは+25%も上がり、S&P500は、2,946ポイントと最高値を更新する。

2019年5月も引き続きトランプ大統領に振り回され下落(-6%)からの最高値更新

しかし、5月6日にトランプ大統領が「中国は交渉で約束を反故にした」と非難し、対中関税の引き上げを表明。ここでもトランプ大統領に市場は振り回されて、5月29日の2,783ポイントまで下げて6%の暴落が発生する。

その後、6月にはG20大阪サミットで米中首脳会談が行われ、交渉継続が確認されたことで市場は一時的に安堵。S&P500は、また、史上最高値を更新することになる。

2019年8月は急激な下落(大暴落的に-6%)

しかし、8月1日、トランプ大統領は中国からの輸入品3,000億ドルに対する10%の追加関税を9月1日から発動すると発表。これにより、S&P500は短期間で約6%以上のドローダウンを記録する。この下落を受け、中国側も報復関税を発表し、両国の緊張は一時的に高まった。

2019年8月以降は市場が慣れた?株価は伸びる(+14%)

ただし、2019年の下落は比較的に短期的であり、8月後半から9月にかけては、再び米中交渉進展の期待感やFRBによる利下げ観測が市場を支え、S&P500は回復局面に転じた。加えて、2019年後半になると市場はトランプ大統領の突発的な関税発言に対して過剰に反応しなくなり、一定の耐性を持つようになった。トランプ政権の通商政策のスタイルが繰り返されることで、市場参加者の間に「またか」という心理が広がり、短期的な下落は限定的となった。

さらに市場が待望にしていた政策金利が下落し始める。これにより、10月には再び高値圏での推移が続き、12月には米中貿易交渉が「第1段階合意」に達したことが正式に発表され、市場は強い買い戻しに動いた。2019年12月19日、S&P500は3,205ポイントの新高値を記録。2018年から2019年にかけて発生した数々のドローダウンにもかかわらず、米国市場は回復力の強さを証明した。

12月27日には、S&P500は3,240ポイントを付け、これは8月5日に比べ+14%の上昇したことになる。

結論はS&P500最高値更新

このように、2018年から2019年にかけて、トランプ大統領の関税発言は複数回にわたってS&P500に短期的な下落圧力を与えた。しかし、
・ 米国経済の堅調だったこと
・ FRBの金利政策が下落に転じたこと
などが相場の下支え要因となり、最終的にはそれらのショックを乗り越えて高値更新に至った。

この2年間の最大の収穫は、投資家はトランプ大統領の発言に振り回されず、持ち続けることが重要だったということだ。

データ:2018年から2019年の5%以上の暴落一覧

いろいろな大暴落があったが最大でも7.2か月で元値を超える最高値を更新している。ボラティリティの高い相場と言える。以下は、10%以上の大暴落を抽出したうえで、5%の暴落を追加した暴落一覧だ。

ピークピーク価格ボトムボトム価格暴落率回復日回復月数
2018年1月26日2,8732018年2月8日2,581-10%2018年8月24日7.0
2018年3月9日2,7872018年3月22日2,644-5%2018年6月12日3.2
2018年9月20日2,9312018年11月23日2,633-10%2019年4月23日7.2
2018年12月3日2,7902018年12月24日2,351-16%2019年2月22日2.7
2019年4月30日2,9462019年5月29日2,783-6%2019年6月20日1.7
2019年7月26日3,0262019年8月5日2,845-6%2019年10月28日3.1

最大ドローダウン(大暴落)を計測すると10%のドローダウンを2つ連結した以下の時期になる。いずれにしても回復期間は7.2か月である。

ピークピーク価格ボトムボトム価格暴落率回復日回復月数
2018年9月20日2,9312018年12月24日2,351-20%2019年4月23日7.2

2025年のとトランプ大統領の発言には過剰に反応しないことをお勧めしたい。

  1. S&P500のデータは、S&P 500 Index (SPX) - Investing.com を参考にした ↩︎
  2. Federal Funds Effective Rate (FEDFUNDS) | FRED | St. Louis Fed ↩︎
  3. トランプ氏、利上げ決定後にパウエルFRB議長解任を議論-関係者 - Bloomberg ↩︎

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