多くの投資家は、株価の変動が平均値に基づいて動くと考えがちだ。例えば「S&P 500は年間平均10%リターンが期待できる」といった一般的なアドバイスがネット上に溢れている。
しかし、実際の株式市場の日々の値動きは、この予測に従う期間が大部分であるが、この予測を超える大きな値動きが感覚以上に頻繁に発生する。これは、積立て投資がうまくいっている感覚が醸造された感覚の中で、突如として大規模の下落に巻き込まれるという恐怖の感覚が予想以上に起こるということだ。
この株価の動きは、ハイピーク・ファットテール現象と呼ばれ、どんな株式市場でも観察できる一般的な現象である。ただし、そこまで一般的には知られておらず、その結果、暴落煽りや恐怖感による積立投資の取崩しが一般的に起こっている。
「長期的な動きは平均的になるものの日々の動きは予想以上に大きいので我慢できずに売ってしまう」という、このハイピーク・ファットテール現象を解説していきたい。
ハイピーク・ファットテール現象とは
インデックス投資家ならば、ランダム・ウォークという言葉を聞いたことがある人も多いと思う。このランダム・ウォーク理論は、株価の値動きにはランダムに起こり、規則性が無く予想できないとする理論だ。
インデックス投資の理論的な背景であるランダムウォークの嘘
少し難しい話になるが、資産を守るために300文字程度読んでほしい。
このランダム・ウォークというのは、ランダムに物事が起こるということ。ランダムは、試行回数の増加に伴いその結果は、正規分布に近づくとされている。この正規分布とは、データが平均値付近に集中し、左右対称の釣鐘型を描く確率分布である。正規分布では、平均値付近にデータがそれなりにデータが集積し、極端な値(大きな変動)は稀にしか発生しない。
株価はランダムウォークしない(正規分布ではない)?
しかし、実際の株価データでは、平均値付近にデータがかなり集中しつつも、極端な値も頻繁に発生する「ハイピーク・ファットテール」と呼ばれる特徴的な分布を示す。これは、通常は平均的な動きをしているものの、突如として大きな下落や上昇が起こり得ること意味する。
つまり、ランダムからもたらせる正規分布とは違った動きをするため、株価は厳密にはランダムウォーク=正規分布はしない。
実データで見るハイピーク・ファットテール現象
ここからは実際の株式市場のプライスリターン(株価変動)を使ってみていきたい。
S&P500の日次リターンを使ったハイピーク・ファットテール現象の解説
今回は解説に入る前にもし、正規分布に従ったらこのこのようなグラフになるというのをお見せしたい。以下のように平均のリターンである、日々、平均で0.04%を中心に釣り鐘状に日数が並ぶ。日次リターンが1.23%(+1σ)から-1.15%(-1σ)の間に約68.3%の日数が、2.42%(+2σ)から-2.33%(-2σ)の間に約95.4%、3.60%(+3σ)から-3.52%(-3σ)の間に約95.4%±3σに約99.7%のデータが含まれることを意味する。
つまり、標準偏差に従うと、過去30年で、-3.52%以上下落が起こる日は10.2日、約3年に1回しか起こらない極めてまれな変動ということが言える。

S&P500の日次リターン30年分の分析
もし、株価が正規分布に従えば青色の点線通りに日数が分布するはずであるが実際には
ハイピーク:日次平均は0.04%プラス(年率平均約10.8%)。リターンの多くは平均値に集まっており、平常時の市場は穏やかなプラスのリターンを付ける。
ファットテール:-3σ(-3.52%以上)を超える下落は59日となり、正規分布(10.2日)の約6倍発生している。
このようなピーク時や大暴落にデータが集まる代わりに中間的なパフォーマンスを示す日が正規分布よりも少なくなっているのが特徴だ。

S&P500の暴落部分のヒストグラム(日次)
以下が暴落部分のファットテールのグラフである。正規分布に従えば-4%の下落は、1.4日発生したはずであるが、実際はその倍以上の4日発生している。5%以下の下落は理論上あまり起こりえないが、実際のデータは発生している。このように大暴落は正規分布よりも多く発生しているのだ。
今回の分析の対象の範囲の範囲外であるが、近年最も日次パフォーマンスが悪かったブラックマンデー(1987年10月19日)の-20.5%だ。正規分布で言えばこのような日は起こりようがない。ただし、実際に起こっているのである。

S&P500のハイピーク・ファットテール現象
以下がハイピークとファットテール現象をまとめたものである。平均的な日数の出現割合は1.4倍、大暴落の割合は5.8倍となっている。
範囲 | 実際の 日数 | 実際の 割合(%) | 正規分布 での日数 | 正規分布 での割合(%) | 出現倍率 | |
---|---|---|---|---|---|---|
平均的 | ±0.5σ (-0.55%〜0.63%) | 4,041日 | 53.5% | 2,892日 | 38.3% | 1.4倍 |
大暴落 | -3σ以下 (〜-3.52%) | 59日 | 0.8% | 10.2日 | 0.1% | 5.8倍 |
NASDAQ100を使ったハイピーク・ファットテール現象の解説
次にS&P500よりもボラティティが大きいといわれるNASDAQ100でハイピーク・ファットテールを分析してみる。
NASDAQ100の日次リターン30年分の分析
もし、株価が正規分布に従えば青色の点線通りに日数が分布するはずであるが実際には
ハイピーク:日次平均は0.07%プラス(年率平均約18.5%)。リターンの多くは平均値に集まっており、平常時の市場は穏やかなプラスのリターンを付ける。
ファットテール:-2σ(-3.40%以上)を超える下落は227日となり、正規分布(171.8日)の約1.32倍発生している。表からは見えずらいが、-3σ(-5.14%以上)を超える下落は50日となり、正規分布(10.2日)の約4.9倍発生している。

NASDAQ100の暴落部分のヒストグラム(日次)
以下が暴落部分のファットテールのグラフである。正規分布に従えば-4%の下落は、20.9日発生する。実際は24日発生している。6%以下の下落は理論上あまり起こりえないが、実際のデータは発生している。このように大暴落は正規分布よりも多く発生しているのだ。
今回の分析の対象の範囲の範囲外であるが、近年最も日次パフォーマンスが悪かったブラックマンデー(1987年10月19日)のNASDAQ 100のパフォーマンスは-15.1%だ。正規分布で言えばこのような日は起こりようがない日と言える。

NASDAQ100のハイピーク・ファットテール現象
以下がハイピークとファットテール現象をまとめたものである。平均的な日数の出現割合は1.4倍、大暴落の割合は4.9倍となっている。
範囲 | 実際の日数 | 実際の割合(%) | 正規分布での日数 | 正規分布での割合(%) | 出現倍率 | |
---|---|---|---|---|---|---|
平均的 | ±0.5σ(-0.80%〜0.94%) | 4,008日 | 53.1% | 2,892日 | 38.3% | 1.4倍 |
大暴落 | -3σ以下(〜-5.14%) | 50日 | 0.7% | 10日 | 0.1% | 4.9倍 |
日経平均の日次リターンを使ったハイピーク・ファットテール現象の解説
それではこのハイピーク・ファットテール現象は日本の株式市場でも観察できるのか?結論はできるである。この問題はアメリカ市場や日本市場という国特有のものではなく、どんな金融市場にも見て取れる現象なのだ。
日経平均の日次リターン30年分の分析

心理的負担と長期投資の心構え
このハイピーク・ファットテール現象により、投資家は普段の安定した値動きに慣れていると、突然の大きな下落に直面した際に強い心理的負担を感じることになる。
例えば、日々の小さな上昇変動に安心していた投資家が、突如として急落を経験すると、パニックに陥り、冷静な判断が難しくなる。その恐怖から狼狽売りが起こる。長期投資家にとって重要なのは、このような市場の特性を理解し、日々の値動きに一喜一憂せず、計画的な積立投資を継続することである。
日々の市場の短期的な値動きは長期投資にとってはしょせんどうでもよいことである。なぜなら、長期的な株式市場の動きが、平均的なリターンに回帰するからである。