「S&P 500は過去10年で平均利回りは約10%」と聞くと魅力的に感じるのに、
「リーマンショック時にはS&P 500は半値近くまで下落した」と言われると株に手を出したら危険だと過剰にリスクを感じる。
同じS&P500でも、利回りで示されるか、リスクで示されるかで判断が変わってしまう。
このように、同じ商品であっても、表現のされ方次第で投資判断が変わってしまう心理をフレーミング効果と呼ぶ。重要なのは、「情報の中身が違うから判断が変わる」のではなく、「中身は同じなのに見せ方だけで判断が変わる」という点だ。
このフレーミングというのは、枠を与えること、つまり、人が状況を理解する際に使う「これはどういう話か?」という解釈の枠を設定するという意味だ。
そして、このフレーミング効果は、様々な投資心理の中でも最も影響力が大きいものともいえる。その理由は、判断の誤りを生む以前に、判断が行われる前提条件そのものを決めてしまうからである。人は情報を受け取る際、「これは利益の話か」「損失の話か」「安全か危険か」といった枠組みで状況を理解する。
この枠が一度固定されると、その後の評価や選択は枠の内側でしか行われなくなる。例えば、損失回避といった他の投資心理は、このフレームの中で連鎖的に発動する。つまりフレーミング効果は、個別の判断バイアスを引き起こす土台として機能するため、投資心理の中でも最も上流で影響力が大きいと位置づけられる。
フレーミング効果の原典:アジア疾患問題と判断変化
フレーミング効果の原典ともいえるのが論文が「The Framing of Decisions and the Psychology of Choice1」である。
この論文では、「アメリカで未知のアジア由来の病気が流行った場合、公共政策がどちらが適切か?」という質問、通称、アジア疾患問題が紹介されている。これが、フレーミング効果の解説で最も使われている例であろう。以下が、その利益の枠にはめた聞き方と、損失の枠にはめた聞き方で、人間の判断が大きく分かれる例だ。
利益の枠(フレーム)から聞いた質問
以下の2つの質問の中で適切なものはどれか?
対策A:「600人中、200人が確実に助かる」
対策B:「3分の1の確率で600人全員が助かるが、3分の2の確率で誰も助からない」
結果:72%が確実なAを選んだ。
損失の枠(フレーム)から聞いた質問
以下の2つの質問の中で適切なものはどれか?
対策C:「600人中、400人が確実に死亡する」
対策D:「3分の1の確率で誰も死なないが、3分の2の確率で600人全員が死亡する」
結果:78%が不確実なDを選んだ。
A or B と C or D は、結果としては同じ内容を別の言い方で提示しているにすぎない。
合理的なら、表現が変わっても選好は同じになるはずである。つまり、Aが72%ならば、Cも同程度選ばれるべきだが、実際は、22%しか選択されなかった。これは、利益(助かる)という枠にはめて聞くと確実な選択が好まれ、損失(死ぬ)という枠にはめて聞くと不確実な選択が好まれるといことだ。
つまり、どんなフレームにはめるか次第で人々の選好は大きく変わる。
人間はフレームを使えば期待値として不利な選択もする
この論文では、人間は、枠にはめると不利な選択をしないかどうか?ということも実験している。
今、2つの選択がある。
選択A:「240ドルを確実に得る」
選択B:「25%の確率で1000ドルを得るが、75%の確率で何も得られない」
結果:Aを選んだ人が84%
確実性効果とは
期待値はAが240ドル、Bは、1000ドルの25%なので250ドルとなり、期待値的に言えばBの方のほうが有利な選択である。ただし、Bを選んだ人は16%に過ぎなかった。それでも多くの人がAを選ぶのは、人が期待値ではなく「確実かどうか」を重視して判断するからである。利益を得る場面では、確実性は心理的に過大評価され、不確実な利益は割り引かれる。
このため、人は最終的に得られる金額という確率的な計算より、「確実に手に入る」という安心感を基準に投資判断に使ってしまいがちだ。これを論文では「Certainty Effect(確実性効果)」として紹介している。
投資でよくあるフレーミング
投資判断は、数字そのものではなく「どう示されたか」というフレームに強く左右されがちだ。投資商品で特に多い代表的な3つのフレーミングを整理する。
平均利回りのフレーミング
米国株は「過去平均年率10%」と説明されることが多い。
これは利得の枠で強調された典型的なフレーミングである。しかし、この平均値は年ごとのリターンのばらつきを説明していない。実際には、プラスの年もあれば大きくマイナスになる年も存在する。平均10%という表現だけを信じて投資すると、下落局面で「話が違う」と感じ、長期的には合理的でない売却をしてしまいがちになる。
平均リターンのフレーミングは、リスクの存在を見えにくくする点で、投資家の判断を歪めやすい。
金額表示のフレーミング
株価や指数の変動を金額で示すフレーミングも、判断を大きく歪める。
例えば日経平均が2万円時代に1,000円下落すれば5%の下落になる。そして、現在の5万円の時代に、その倍の2,000円下落したとしても同じ5%である。ただし、下落金額として2,000円という数字が強調すると、過去に比べて大きな下落が起こっていると感じられて「危険だ」「もう限界だ」と恐怖が増幅される。
その結果、実際のリスク水準以上に不安を感じ、冷静な判断ができなくなる。これは金額というフレームが、変動の本質を隠してしまう典型例である。
確率のフレーミング
確率の示し方も強力なフレーミングである。
米国株のアノマリーなどの解説である上昇確率などで言えば、過去30年で4月の上昇確率が74%!と聞くとかなり強い月と感じられる。その一方で、過去30年でみると、26%の確率で4月は下落していると、投資を避けたくなる。
損失を強調した確率フレーミングは、投資家に確実感や恐怖を過度に与え、リスクを冷静に評価する視点を奪いやすい。
まとめ:フレーミング効果と付き合うためには
人間である以上このようなフレーミング効果から逃げることはできない。ただし、フレーミング効果を弱めるために積極的な行動はできる。
具体的には、
・ 利益、損失と両面から分析すること
・ 物事をニュースなどの断片的な情報から判断するのではなく、全体のストーリーから判断するクセをつけること
が重要になる。
つまり、投資商品は、主に利益面から訴求されているので最大下落率なども併せて調べる、ニュースは注目を集めるために特徴的なものを扱っているので、ニュースの前にどのような歴史があったのかを調べるなどが重要だ。
ただし、感情に基づく第一印象、確実性を過大評価する傾向、損失に対する過剰な反応は無意識に生じ、完全に取り除くことはできない。そのため重要なのは、フレーミングを排除しようとすることではなく、影響を自覚し、判断を壊さない工夫を重ねることである。また、このような人間が本来持つ思考の癖や心理的な罠を理解することでより安全な投資判断につながる。以下の記事では、投資判断を狂わせやすい代表的な心理や思考の罠について、投資心理学の面から体系的に解説しているので参考にしてほしい。
