米国株のアノマリーを考える上で重要なのは大統領選サイクル。これは、政治が大きく株価を動かすということだ。ただ、少し長期的な視点で見てみると金利がどのように動くかが一番重要な視点になってくる。
アメリカで選挙に勝つためにはどうしたら良いのか?
トランプ大統領は、保護貿易によるアメリカの製造業の復活、特にラストベルト(中西部地域と大西洋岸中部地域)の復活ということを掲げている。これはトランプ大統領の思いだという話もあるが、選挙に勝つということでは非常に合理的な選択ともいえる。
ラストベルトとは
ラストベルト(Rust Belt)とは、アメリカ北東部から中西部にかけて広がる、かつて製造業が盛んだった地域を指す呼称。五大湖周辺で、オハイオ州、ミシガン州、ペンシルベニア州、イリノイ州、ウィスコンシン州などを指す。
20世紀前半は自動車や鉄鋼などの工場が集まり、アメリカの経済の中心地だったが、1970年代以降の産業空洞化により多くの工場が閉鎖され、都市の衰退や失業が進行、多くの社会問題を抱えるアメリカの暗部だ。錆びついた=ラスト、工場地帯=ベルト、で、ラストベルトと呼ばれている。
ラストベルト州で勝つと大統領になれる?
アメリカの製造業の復活を掲げる一つの理由は選挙対策だろう。過去3回の大統領選挙を見ればこのラストベルトで勝利した候補が大統領に就任している。
以下が2024年、2020年、2016年の選挙結果1である。ほとんどの州で民主党支持、共和党支持というのは変更はない。計算上、ラストベルト州と言われる、ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州という3州をどちらの候補が獲得するかで大統領選の勝者が決まる。




ラストベルト復活は構造的に無理であるが...
この非常に限られたアメリカの一部の地域がアメリカ全体の政治に大きな影響を与えている一方で、この地域の復権は非常に難しいと言えよう。これはアメリカ国内の工業地帯はサンベルトと言われる南部に移動し続けているからだ。
サンベルトは、アメリカ南部から南西部にかけて広がる、温暖な気候の地域を指す。「太陽の帯」という意味で、カリフォルニア州、アリゾナ州、テキサス州、フロリダ州、ジョージア州などを指す。
このサンベルトへの移動は、 古くは日米貿易摩擦の1980年代にすでに確認できるとトレンドだ。この時代にトヨタはケンタッキー州に工場を、ソニーはアラバマ州に工場を作った。 次世代の自動車産業でトレンドを引っ張るテスラの工場はカルフォルニア州、テキサス州、ネバダ州にある。すべてサンベルトだ。GMやフォードなどのアメリカの古くからの自動車産業の新規投資の主軸はケンタッキー州である。
つまり、トランプ政権が保護貿易を取ったとしても、サンベルトは繁栄するかもしれないが、ラストベルトの復権には直接的にはつながらないのだ。
ラストベルトに気を使いつつも好景気を保つ
ラストベルトの経済的に持つ意味は年々減ってきていると言えよう。さらに復活もなかなか難しい。このような状況で、ハイテク産業が引っ張るアメリカ経済がダメになれば、そもそも不景気なラストベルトの不景気は深刻化することになる。これで、より選挙に勝てなくなる。
これが、トランプ大統領が、2018年から2019年にラストベルトの製造業復活のために”わざわざ”に米中貿易(関税)戦争を戦ったにもかかわらず、コロナ禍の2020年にラストベルト州で負けた理由でもある。
ラストベルトフレンドリーな政策を取りつつも、全体のアメリカ経済を好景気に保つというのが、トランプ政権が中間選挙に勝つために必要な施策といえる。
金利が下がれば経済は持ち直す?
アメリカ全体の景気はやはり金利動向というのが一番重要だ。金利が下がれば経済が刺激されて景気が良くなるというのは定説中の定説である。つまり、株価の行方はFRBが政策金利を下げられるか?ということに集約するだろう。
中立金利とインフレ
FRBの政策金利がどのくらいが良いか?は、中立金利という考えがある。中立金利は、景気を加熱も冷却もせず、「経済が持続的な成長と安定したインフレを保てる水準」の政策金利を指す。これは、現在、2.375%から3.75%2までと開きがあるが、現在の政策金利よりかは低い。
これらの中立金利まで、金利が下げられるかどうかはインフレがどうなるかにかかっている。
今後も注目ニュースは、トランプ大統領の発言よりもインフレがどうなるか?となる。