利用可能性ヒューリスティックとニュースに惑わされる投資判断

2026年1月17日

投資判断はデータと理屈で行っているつもりでも、実際には「直近のニュース」や「強く印象に残った出来事」に引っ張られることが多い。これは、利用可能性ヒューリスティックの影響である。

利用可能性ヒューリスティック(availability heuristic)とは、意思決定する際に「頭にすぐに思い浮かぶ具体例」に依存する認知の歪みである。直近に見た悪い株価下落のニュースなど、単に思い出しやすいだけの情報に投資判断が引きずられるのが、この心理の典型的な作用である。

利用可能性ヒューリスティックとは何か

人間の脳は、思い出しやすい情報を「重要だ」と判断しやすい。これは、限られた時間や脳資源の中で意思決定を行うため、思考の近道を使う必要があるからだ。

しかし、投資判断においては、時としてこの仕組みがそのまま認知の歪みになる。例えば、バズりやすい情報は、思い出しやすい。目立つだけでなく、その話題はSNSで反復され、感情を刺激し、記憶に焼き付きやすい。その結果、「よく見る」「よく聞く」という理由だけで、重要度や確率を過大評価してしまう。

尚、ヒューリスティックとは、人が複雑な問題を素早く判断するために用いる思考の近道のことを言う。すべての情報を使って判断するのではなく、経験則や直感に基づいて「だいたいこうだろう」と判断する思考の近道を使う。これがヒューリスティックであり、利用可能性ヒューリスティックはその一種である。

社会の様々な場面で出現する利用可能性ヒューリスティック

利用可能性ヒューリスティックは、いろいろなところに存在している。

児童誘拐や航空事故など、異常で衝撃的な出来事は頻繁に報道されるため、人々はそれらの発生確率を過大評価しやすい。また、インフルエンザなど、一般的または注目度の高い疾患は、実際以上に診断対象として選ばれやすいなど、投資に限らず、これは人間が持つ認知の仕組みと捉えたほうがよい。

これらはいずれも、人間が本来持つ認知の仕組みとして自然な反応である。ただし、投資のような不確実な分野では、人は判断の拠り所を求めやすく、その結果、利用可能性ヒューリスティックの影響がより強く現れがちである。

ニュースが投資判断に与える影響

話題になった株が良く見える理由

話題になった株が実態以上に魅力的に見えてしまう背景には、利用可能性ヒューリスティックがある。頭にすぐ思い浮かぶ情報を重視する傾向が、ニュースやSNSで拡散された銘柄ほど「良い株」「伸びる株」という印象を形成する。

業績の持続性や割高かどうかといった冷静な検討よりも、「話題になっている」という事実そのものが評価軸になってしまう。これは、単に思い出しやすい例に依存している状態である。そして、話題性はリターンを保証するものではない。

重要なのは、その企業が将来どのような利益を生み続けられるかという期待値である。

暴落煽りが投資判断を歪める理由

更に良いニュースよりも悪いニュースのほうが頭に残りやすい。これは、プロスペクト理論でも証明されているように、人間は損する痛みのほうが、得する喜びよりも、心理的インパクトが約2倍大きいと言われているからだ。

「暴落」「危機」「崩壊」という単語は、事実の説明というより心理への刺激として働く。

しかし、問題は、暴落の頻度や回復の歴史を冷静に比較する前(参考記事:大暴落した時に読むべし:1980年以降にS&P 500が15%以上下落した10回を解説)に、「恐怖の具体的なイメージ」だけが頭に残り、利用可能性ヒューリスティックによる思考の罠にハマる点にある。

例えば、リーマンショックを例にとろう。2008年9月15日に起こったリーマンショックのことは何度も語られ、多くの人は株価が半値になったという事実は広く知られている(利用可能である)。

リーマンショックは、2008年9月に株価が急落した出来事として強く記憶されている。これを、多くの人は「株価が半値になった100年に一度の暴落」ということで、利用しやすい情報として記録しているだろう。

一方で、リーマンショック前の最高値は2017年10月9日であり、実際にはその1年ほど前から株価はすでに調整局面に入っていた。また、2013年3月28日には、リーマンショックから約4年半を経て、S&P500は5年半ぶりに最高値を更新している。しかし、直前の調整局面の話や、回復までの過程を具体的に利用しやすい情報として記憶している人も多くない。

つまり、損を恐れるというプロスペクト理論の影響と利用可能性ヒューリスティックが重なり、負の情報だけが強く記憶されているのである。

まとめ:ニュースに振り回されない投資判断のために

利用可能性ヒューリスティックを良く言えば、脳が効率的に働く仕組みともいえる。ただし、投資という不確実性の高い領域では、負の要素を拡大し、判断を歪める可能性があることを理解しておく必要がある。

投資判断の質は、情報量ではなく、情報の扱い方で決まる。思い出しやすい例だけで結論を出すのではなく、長期間のパフォーマンスデータなど、理解に時間がかかる情報も併せて検討することで、投資の安定性は高まる

投資判断は、知識や経験だけで決まるものではない。人間が本来持つ思考の癖や心理的な罠を理解することが重要である。以下の記事では、投資判断を狂わせやすい代表的な心理や思考の罠について、投資心理学の面から体系的に解説している。例えば、投資におけて認知したほうが良いもう一つのヒューリスティックである、代表性ヒューリスティックなどだ。気になるテーマから読み進め、自分の投資行動と照らし合わせてみてほしい。

-投資心理学