「長期保有は投資王道」と語られることが多い株式投資の世界。その中でも、ウォーレン・バフェット氏は「我々のお気に入りの保有期間は永遠だ1」という名言を残し、長期投資の象徴的存在として広く知られている。
たが、長期保有した銘柄でもいずれは利確しなくてはいけない。バフェット氏が率いるパークシャー・ハザウエィ社も保有期間が永遠という訳でもなく、最近のアップル社を筆頭に数多くの株式を利確している。
この記事では、バフェット氏がどのタイミングで長期保有株を売却したのかを分析し、長期保有株の売り時を考えていきたい。
現在進行形:売却タイミングを計っているバフェット氏
長期投資家は「何も考えずに市場にお金をさらし続ける」のが得策とされているが、バフェット氏は売り時に関して、明確にタイミングを計っている。最近、注目されているのが、長期保有していたアップルとバンク・オブ・アメリカというポートフォリオで1位、2位の保有額を占める銘柄をこのタイミングで利確した。
アップル社の利確
アップルは、2016年に初めて取得された。バフェットがアップル株を始めて取得した時の、アップル社のPER(株価収益率)は約10倍だ。これが、現在約40倍までなっている。つまり、高すぎるアップル株のPERを、アップル社への市場の過熱感と捉え割高=売り時と考えたのだろう。
ウォーレン・バフェット氏は、2024年1月から9月までの時期にアップル株を約3分の1に減らし、それに伴い手元資金が過去最高になったとしている2。
また、アップル株の高騰=投資の大成功に伴い、最大でポートフォリオの4割程度がアップル株となっていた。1つの銘柄への依存は危険ということから、ポートフォリオのリバランスという狙いもあるだろう。
バンク・オブ・アメリカの利確
バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)は2011年に取得された。その頃はリーマンショックによる影響でバンク・オブ・アメリカが苦しんでいた時期だ。その後、コロナ禍で株価が下がる中、買い増しを進めていた。その株を、2024年7月から年末までに約3分の1を売却している。
10年以上も保有していたわけであるが、現在の株価高騰が、金融市場全体のリスクが上がっているととらえ、その回避ために保有額を減らしているとされる。リスクオフの動きなのだろう。
これは、他の金融保有株のシティーグループやキャピタル・ワンなども売却を進めているからの推測だ。最近は、S&P 500のETFを全売却してこれも話題になっている。つまり、リスクオフ=これらの売却を進める一方で、得た資金で別の銘柄に投資するのではなく、現金同等物の保有を増やしているとされている。
2社の例を見たウォーレン・バフェット氏の利確タイミング
つまり、バフェット氏が長期保有株を放出するタイミングとしては、
アップル社の例:割高感とポートフォリオのリバランス
バンク・オブ・アメリカの例:個別銘柄の理由というよりも株式市場のメガトレンドに沿ってトレードしている
ということが見えてくる。
過去形:やはり売却タイミングを計っているバフェット氏
次の過去に長期保有して売却した有名銘柄は以下だ。
銘柄名 | 初回取得年 | 保有期間 | 売却スタート年 |
---|---|---|---|
ウェルズ・ファーゴ | 1989年 | 約32年 | 2021年 |
IBM | 2011年 | 約7年 | 2018年 |
BYD | 2008年 | 約15年 | 2022年 |
ウェルズ・ファーゴ社の利確
バフェット氏の過去のお気に入り銘柄の代表例として挙げられるのが、銀行業を営むウェルズ・ファーゴ社である。1989年に取得し約32年保有していたが、2021年に全株を売却した。売却の背景には、会社の不祥事による業績悪化である。会社がダメになったら素早く売るということだろう。
IBM社の例の損切
また、IBMも長期保有されていた銘柄の一つである。2011年に投資が開始され、当初は大きな期待を寄せられていたものの、業績の伸び悩み、2018年までに売却された。ウェルス・ファーゴ社と大枠の理由が一緒で、これは業績がダメだったということだろう。尚、IBMへの投資でバフェット氏は、11億4,500万ドル(150円レートで1,718億)の損失を出したとされている3。
BYD社の例の利確
アップル以外のテクノロジー企業と言えば、中国の電気自動車メーカーのBYDも長期保有されていた重要な銘柄の一つである。2008年に投資を開始し、中国の電気自動車市場の成長を見越した戦略的な保有だった。一時はBYD社の20%程度の株式を保有していたが、2022年に一部売却が開始され、2024年7月までには、BYD社の保有比率が5%以下まで下がった。尚、バフェット氏はBYDで、2000%のリターンを得たとされている4。
BYDは当時業績は絶好調で、その後も業績の好調は続いた。という視点でいえば、なぜ売却したかは謎に包まれているが、とにかく、セクターとしての電気自動車エリアの投資は、ピークを過ぎて手じまいということなのであろう。ここでは若干ではあるが、雰囲気投資家のバフェット氏の一面も見れる5。
売却に至った要因をまとめてみると
長期保有した株を振り返ってみると3つのトレンドが浮かび上がる。
#1 膨大な含み益をポートフォリオの再編成という名で利確する
アップルやBYDなど莫大な利益を得た株式は、10年程度の保有期間を見て確実に利確している。永遠という保有期間はやはりリスクなのだろう。
#2 お気に入りであっても業績が悪ければすぐに利確&損切する
IBMやウェルズ・ファーゴのように企業業績がダメになったら、それなりの保有期間があっても売っている。企業リスクは負えないということだろう。長期保有銘柄のアメックスやコカ・コーラ社も大きな不祥事などがあったら売却に踏み切るのではないか?長期保有と言えども、個別株投資をやっている以上、このような俊敏性は必要なのであろう。
#3 メガトレンド:マーケット(市場)リスクを感じたら利確する
市場が過熱した際には現金比率を上げるバフェット氏。株式と現金保有のバランスを取るというのが売却に至る背景だろう。
利確&損切は重要:バフェット氏の保有期間は永遠ではなく4.5年?
バフェット氏の率いるパークシャー・ハザウェイ社の株式の平均保有期間は実は4.5年とされている6。長期投資家としては短い気もする。
もっと驚くべき事実は、1998年以降に投資が明らかになった175銘柄のうち、半年未満の保有(報告書に1回から2回の登場)は39銘柄もあり、22%が素早い撤退になっている。長期投資家のバフェット氏は、実はかなりの俊敏性を維持している投資家ともいえる。
つまり、長期投資家と言えども、個別株においては、企業への盲信は避けたほうが良いというのがバフェット氏の教えかもしれない。
- In fact, when we own portions of outstanding businesses with outstanding managements, our favorite holding period is forever(実際、優れた経営陣による優れた企業の一部を所有する場合、当社が最も好む保有期間は永久です). from Chairman's Letter - 1988 ↩︎
- 米バークシャー、アップル株売却 手元資金が過去最高に | ロイター ↩︎
- 202104281024529352.pdf ↩︎
- バフェット氏のバークシャー、BYD株さらに売却-保有比率5%割れ - Bloomberg ↩︎
- バークシャーは、なぜ業績絶好調のBYD株を売却したのか|会社四季報オンライン ↩︎
- https://www.camri.or.jp/files/libs/1615/202104281024529352.pdf ↩︎