投資コラム

投資詐欺?と思ったら読むべき話

2024年7月5日

新NISAで投資を始める人が増える中、投資詐欺被害も増えているらしい。私もいつ投資詐欺の被害者になるかわからない。この記事ではなぜ投資詐欺に騙されるのか?を考えていきたい。

最近の投資詐欺の流れ:絶対儲かる話のデジタル化

インスタグラム等で著名人を語った詐欺広告に誘導されてLINEグループに登録。グループチャットや1:1チャットで勧誘されて入金してしまうというのが詐欺の流れらしい。以前は投資詐欺といえば、古い友人にセミナーに誘われてそこで説得されたというようなものが多かった印象だが、デジタル化したわけだ。

ただ、デジタルでもリアルでもそんなうまい投資話は、このページを書いている私や読んでいるあなたには案内が来ないだろう。

おいしい投資話が一般小口投資家には来ない理由

  • 小口で100万円づつ100人からお金を集めるよりも大口で1億集めたほうが管理が楽
  • よくわからない人に説明するよりも投資やお金のプロを相手に金利を払ったほうが楽
  • 一般小口投資家を対象にしたファンドは沢山のお金を集める必要があり多くの人にファンドの予算を伝えたい、つまり、貴方だけの耳寄りの話は成り立たない。
  • 自分が儲けるために人を巻き込むためには、知識が乏しい一般投資家に声をかけたほうが楽

上記のようにお金を持ってない一般小口投資家(リテール・インベスター)には広く案内できないような貴方だけのおいしい投資話が来る理論的な根拠がなく、来たとしたら投資詐欺を疑ったほうが良いということになる。

ただし、投資詐欺に騙されてしまう。それは投資詐欺の提案は絶対儲かるというようなすごく魅力的なものだ。というのも残念ながら「投資は絶対儲かるものはない」ので、通常リスクを延々と説明される。その中で絶対に儲かる的な言葉に心を動かされるのもわかる。

絶対儲かるは”ない”からこそ投資詐欺が魅力的

絶対に儲かる的な言葉に心を動かされる前に、その話を否定するために使われている有名な話を紹介したい。LTCM社の話だ。

LTCM社の話:ドリームチームの行方

LTCM社(ロングタームキャピタルマネジメント社)は、1994年から1999年までに実在したアメリカの資産運用会社(ヘッジファンド)1。コンピューターを使った統計モデルを使い債券を運用していた。メンバーには、現在の金融工学の基礎となる「ブラック–ショールズ方程式」を完成させた経済学者マイロン・ショールズ氏などが参加していた。ショールズ氏は1997年にノーベル経済学賞を受賞している。このことからも当時、LTCM社は金融業界のドリームチームといわれていた。

当初から、LTCM社には多くの著名機関投資家が投資しただけでなく、4年ほど華々しい成功を収めた。が、アジア通貨危機(1997年)とロシア財政危機(1998年)の影響で債券運用に失敗した。統計モデルがこのような大規模なマーケットの下落が起こる確率を過小に見ていたのが原因といわれている。

運用総額が大きかったため損失は46億ドル(現在の160円レートだと7360億円)だったそうだ。破綻すると経済的な影響も大きいことから、救済融資が行われ、その後、閉鎖となった。世界最高峰の頭脳があっても運用は失敗したのであった。

現代金融工学の基礎を作った人でも勝てないことがあるのが運用

このLTCM社はよく「確実に儲かる話(運用方法)はない」という実例に使われている。

つまり、もし「貴方だけ特別に絶対儲かる仕組み」があったらそれは金融業界の大発見になるので魅力的に感じるのはわかる。しかし、「貴方だけ特別に絶対儲かる仕組み」を作ったのであれば、ノーベル賞は受賞できるかもしれない。もっと言えば、LTCM社のように大手機関投資家から大量の資金を調達するのではないか?LINEであなたにコンタクトを取る理由はないだろう。

絶対の儲かる話の裏側:ポンジ・スキーム

LTCM社の失敗は広く知られているのに、なぜ一般投資家だけでなく機関投資家も含めて「貴方だけ特別に儲かる仕組み」を信じるのか?それは実際「儲かった(疑似)体験」をするからだ。

ポンジ・スキームという言葉がある。アメリカ人の詐欺師、チャールズ・ポンジがこの仕組みを大々的に行ったことから名付けられた詐欺のフレームワークだ。

ポンジ・スキームの例
1)高い利払い、例えば、月利5%等を約束してお金を集める。
2) 集めたお金の一部を利払いとして実際に支払う、契約を履行し実績を作る。
 # 100万円を集めたとしたら月利10%であれば月10万円なので、10か月分を払っても短期的には資金は枯渇しない。
3) 高い利払い実績を元に同じ人からさらに投資を引き出す、もしくは、新しい出資者を集める。
4) お金を投資した人は、多くの利払いから、この仕組みにますます依存し、手元資金をさらに入れたり、友人を誘ったりする
5) 仕組み自体が破綻する=突然利払いが止まる。

このように書くとばかばかしい仕組みのようだが、プロも騙され社会問題化した大規模投資詐欺の多くは「単にポンジースキームをしてました」である。

マドフ事件

一時期はNASDAQ株式市場の非常勤会長を務めていたバーナード・L・マドフ氏が運営する投資ファンドがポンジー・スキームだった事件2。2008年のリーマンショックに関連して、ファンド償還要請に応じられなくなって発覚した。

運用総額が650億ドル(現在の1ドル160円レートだと10兆円を超える)こと、マドフ氏が金融業界の大物だったことから世界的な事件になった。尚、マドフ氏は、顧客にカラー取引というオプション取引により利益を出していると説明したようだ。ただし、実際に運用しておらず集めた金で償還するというシンプルなポンジースキームだったらしい。

取引手法も説明されていたため、ポンジー・スキームではないかと見破った人もいた3そうだが結局多くの機関投資家が騙された。ポンジー・スキームを見抜くのは難しいという事件である。

AIJ投資顧問事件

マドフ事件と似たような時間が日本でも起こった。AIJ投資顧問事件4である。日経平均を使ったオプション取引で儲けているという説明であったが、単なるポンジ・スキームとされる。騙されたプロは企業年金運営機関であったため社会問題化した事件でもある。

あらゆる側面でマドフ事件と同じであり、詐欺ではないかと問題提起するメディアもあったようであるが、結果として多くのプロが騙されたのが事実である。ポンジ・スキームを見破るのが難しいということを物語っている。

ポンジー・スキームを避けるためには?

金融のプロが騙されているポンジ・スキーム。結局は見抜けないということなのか?

見抜けないとすると不自然なほどの高いリターンの投資商品には近づかないほうが良いということになる。そして、私たち一般投資家は、ネット証券で扱っているような公募投資信託以外は、購入しないというのがよさそうだ。プロでも目利きができないということであれば私たち一般投資家も見破れないだろう。

投資詐欺にあわないためには:儲かるファンドの裏側

投資詐欺にあわないためには、やはり投資についての理解を深めるしかない。そのためには、投資詐欺の仕組みだけでなく儲かるファンドについての知識もあったほうが良いだろう。

世界最高に儲かるヘッジファンド:メダリオン

地球上でもっともパフォーマンスを上げた投資家はウォーレン・バフェット氏ではない。ジム・シモンズ氏だろう5。氏の運営するファンド「メダリオン」は1988年から2023年まで、年平均40%近い驚異的なリターンをたたき出した6

このファンドは、どのように運用しているかはかなりの秘密主義が保たれており、手数料も高い。その理由は、
・お金を大量に集めると運用効率が下がる
・儲け方を多くの人が知ってしまうと市場でのアドバンテージがなくなる為、儲けられなくなる(儲けるために秘密主義を貫いている
ともいえる)。
ということだ。

つまり、このブログを見ているような一般平民にとって「貴方だけのとっておきの投資話は詐欺」と考えるのが妥当なのではないか?

投資詐欺にあわないためのルール

投資商品は、ネット証券で扱っているものを自分で判断して買うというのを鉄則とすれば、損することがあるが詐欺にはあわないだろう。是非とも参考にしてほしい。

  1. ロングターム・キャピタル・マネジメント - Wikipedia ↩︎
  2. バーナード・L・マドフ - Wikipedia ↩︎
  3. 【書評】マドフ詐欺成功の鍵はSECとの良い関係、道具は旧型IBM - Bloomberg ↩︎
  4. AIJ投資顧問 - Wikipedia ↩︎
  5. 最も賢い億万長者〈上〉 数学者シモンズはいかにしてマーケットを解読したか | グレゴリー・ザッカーマン, 水谷 淳 |本 | 通販 | Amazon ↩︎
  6. 「クオンツの帝王」ジム・シモンズ氏が死去、数学者から投資に転向 - Bloomberg ↩︎

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